「障害を隠して(クローズ)、一般枠で給料を稼ぐべきか」 「障害を開示して(オープン)、障害者枠で配慮をもらうべきか」
就職活動を始めるとき、多くの方が最初に決めることになります。 一般的には「クローズは給料が高いが、リスクが高い」「オープンは楽だが、給料が安い」と言われており、どちらを選んでも何かを犠牲にしなければならないと感じてはいませんか?
ただし、この「常識」は職種によって当てはまり方が変わります。厚生労働省の調査で見ると、障害者雇用で専門的・技術的職業に就いている方は5.8%しかいません。IT職はこの狭いほうに入る進み方で、だからこそ平均から離れた条件を狙える可能性があります。数字は記事の後半で出します。
本記事では、2つの働き方の決定的な違いと、IT職において「安定(配慮)」と「お金(年収)」を両立させるための戦略を解説します。
- オープン就労とクローズ就労、それぞれのメリット・デメリット
- IT職なら障害者枠でも年収が落ちにくい理由
- 「配慮」と「収入」を両立できる状態の作り方
結論|体調が読めないうちはオープン就労。IT職で条件を上げるのはそのあと
先に結論です。いま体調の波が読めないなら、まずはオープン就労(障害者雇用枠)です。配慮を頼める状態を作ってから、職種で条件を上げるほうが戻りが少なくて済みます。
「オープンは給料が安い」と言われますが、安いのは時給・短時間で事務補助や軽作業に入った場合です。職種を選べば同じ枠でも条件は変わります。IT職はその選択肢のひとつで、障害者雇用のなかでは5.8%の少数派のルートになります。
- 体調が読めない/配慮なしで辞めた経験がある → オープン就労から
- 配慮なしで週5日働けている/過去に問題が起きていない → クローズ就労も選べる
- どちらか決めきれない → 障害者手帳だけ先に申請しておく(両方に応募できる)
オープン就労(障害者枠)かクローズ就労(一般枠)か。2つの働き方の違い
まずは、一般的な職種における「オープン就労」と「クローズ就労」のメリット・デメリットを整理しましょう。ここが判断のベースになります。
クローズ就労(一般枠)の特徴
障害のことを企業に伝えずに就職する方法です。
- メリット
-
求人数が多い。給与水準が高い(健常者と同じ)。
- デメリット
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配慮は一切ありません。「体調が悪くて休みたい」「電話が苦手」といった事情も考慮されず、成果を出し続ける必要があります。
- リスク
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無理をして適応しようとした結果、体調を崩して早期離職するリスクが高いです。
オープン就労(障害者枠)の特徴
障害者手帳を取得し、障害があることを開示して「障害者雇用枠」で就職する方法です。
- メリット
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通院のための休暇や、業務内容の調整といった「合理的配慮」が受けられる。定着率が高く、長く安定して働ける。
- デメリット
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給与が安い傾向にある。 多くの求人が「事務補助」や「軽作業」であり、昇給やキャリアアップの天井が低いことが課題です。
発達障害の場合、開示で渡すのは診断名ではなく「どこで止まるか」
発達障害(ASD・ADHD)は見た目で分かりません。だから開示するかどうかより、何をどう伝えるかのほうが働きやすさを分けます。
伝えるのは、業務のどこで手が止まるか
「ASDです」「ADHDです」だけを伝えても、受け取った側は何をすればよいか分かりません。業務に直結した形にすると、相手も動けます。
- ASDの例:「指示は文章でもらえると確実に動けます」「予定の変更はチャットで残してください」
- ADHDの例:「締切は最終日ではなく途中で一度確認させてください」「口頭で複数の依頼が重なると抜けます」
これは合理的配慮として頼めるもので、事業主には配慮を提供する義務があります。クローズ就労を選ぶと、この頼み方が使えなくなります。「給料が高いほうを選ぶ」ではなく、この頼み方が要るかどうかで分かれると考えたほうが実際に近いです。
障害者雇用枠を使うなら、障害者手帳の申請が先に要る
オープン就労で障害者雇用枠に応募するには、障害者手帳が必要です。精神障害者保健福祉手帳は初診日から6か月を過ぎた診断書で申請するので、枠を使う可能性があるなら早めに主治医へ相談してください。手帳を取っても、一般枠に応募することはできます。手帳を取る=オープンで決まり、ではありません。
体調が安定しているかと、配慮なしで働いた経験があるかで分かれる
「自分はどちらを選ぶべきか」は、体調の安定度と価値観によって決まります。以下の基準を参考に、自分と照らし合わせてみてください。
クローズ就労(一般枠)に向いている人
- 投薬などで症状がコントロールできており、安定して週5日勤務ができる。
- 過去にクローズで働いていて、大きなトラブル(長期休職など)がなかった。
- とにかく選択肢(求人数)を最大化したい。
オープン就労(障害者枠)に向いている人
- 過去にクローズ就労で、人間関係や業務負荷が原因で退職した経験がある。
- 定期的な通院が必要で、平日休みなどの配慮が欲しい。
- 精神的な波があり、明確な「配慮(セーフティネット)」がないと不安だ。
- 何よりも「長く安定して働くこと」を優先したい。
障害者雇用の賃金は働く時間と職種で決まる。IT職はどこに位置するか
「オープンは給料が安い」と言われますが、何と比べて安いのかを数字で見ておきます。厚生労働省の令和5年度障害者雇用実態調査(2026年9月8日確認)です。
| 発達障害のある方 | 精神障害のある方 | 身体障害のある方 | |
|---|---|---|---|
| 1か月の平均賃金 | 13万円 | 14万9千円 | 23万5千円 |
| 週30時間以上で働く場合 | 15万5千円 | 19万3千円 | 26万8千円 |
| 平均勤続年数 | 5年1月 | — | 12年2月 |
発達障害のある方の平均が13万円と低く出るのは、短時間勤務が多いからです。支払い形態を見ると月給制52.3%に対して時給制が44.2%あり、半分近くが時給で働いています。「障害者枠は給料が安い」の中身は、時給・短時間で働く人が多いという構造の話でもあります。
職種の内訳を見ると、IT職は5.8%の側にある
同じ調査の職業別では、サービスの職業が27.1%、事務的職業が22.7%、運搬・清掃・包装等が12.5%を占めます。一方で専門的・技術的職業は5.8%です。
つまりIT職は、障害者雇用のなかでは少数派のルートです。「IT職なら年収が落ちない」というより、5.8%の側に入れれば、平均の外に出られるという話になります。逆に言えば、スキルが届かないまま障害者雇用枠に入ると、事務補助や軽作業の側の条件になります。
採用の枠そのものは増えています
民間企業の法定雇用率は2024年4月に2.5%へ、2026年7月には2.7%へ引き上げられました。障害者を雇う義務のある企業の範囲も、従業員37.5人以上に広がっています。枠が増えたぶん、どの職種で入るかを選ぶ余地も出てきます。
では、いま障害者雇用枠で転職するか、先にスキルを身につけてから動くか。30代の場合にどちらを選ぶかは、次の記事で条件ごとに分けています。

「IT職」ならオープン就労のデメリットが消える可能性がある
ここまで読んで、「安定(オープン)を取りたいけど、給料が安いのは嫌だ」と思った方もいるでしょう。 実は、「ITスキル」を身につければ、この「安定か年収か」の板挟みが変わる場合があります。
なぜIT職は障害者枠でも「年収」が下がりにくいのか
理由はシンプルで、IT業界が「スキル評価主義」だからです。 「事務補助」は誰にでもできる仕事として買い叩かれますが、ITスキルは障害の有無に関わらず市場価値が高いのです。
- プログラミング
-
システムを作れる
- Webデザイン
-
サイトを作れる
- データ分析
-
数字を扱える
ただし「増えている」と言い切れる公表データはありません。言えるのは、専門的・技術的職業は障害者雇用の5.8%しかないということと、法定雇用率の引き上げで採用の枠自体は広がっているということです。IT職はエンジニアだけでなく、Webデザイナー、テストエンジニア、データ入力から進む道もあるので、入口の幅はあります。
運営側の視点「手帳を取ったらオープンで決まってしまう」と思って申請を止める方がいますが、手帳を持っていても一般枠には応募できます。逆は効きません。手帳が無いと障害者雇用枠には応募できないので、迷っているうちは先に申請だけしておくほうが選択肢が減りません。
就労移行支援に通っても、IT職のクローズ就労を選ぶことはできる
「就労移行支援に通う=障害者枠(オープン)しか選べなくなる」と勘違いしていませんか? それは大きな誤解です。
実力をつけてから「クローズ」で応募するのもあり
就労移行支援は訓練の場所であって、障害者雇用枠に進むことが決まっているわけではありません。制度上、通ったあとに一般枠へ応募することもできます。訓練を受けながら「配慮なしでやれそうか」を確かめて、出口を決める形になります。
特にIT特化型の事業所では、以下のように柔軟な出口戦略が立てられます。
- Neuro Dive
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AIを使ったデータ分析とRPAによる業務効率化に絞った内容を学びます。公式サイトはIT職種就職率76%を公表しています(2026年9月8日確認)。
- atGPジョブトレIT
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Web制作を実践的に学びます。デジタルハリウッドと提携した教材があり、完成したページという形で成果物が残ります。拠点は東京と大阪です。
「どっちにするか」を今すぐ決める必要はありません。通いながら支援員と相談して、いまの自分がどこまでの負荷なら続けられるかを確かめてから決められます。見学のときに「オープンとクローズの両方を相談できますか」と聞いてください。


あわせて、IT特化型就労移行支援の全国ランキングもご覧ください。
ここまで挙げた事業所は、どれも公式情報で確認できる範囲の違いです。
1社だけ見て決めず、2〜3社を見学・体験して比べてください。パンフレットや口コミでは分からず、実際に足を運んで初めて分かるのは次の3点です。
- 支援員との相性(毎日顔を合わせる相手が、自分に合う話し方をするか)
- 学習内容(カリキュラム名ではなく、実際に何を作り、どう就職につなげるのか)
- 通い続けられるか(通所ルートの負担、教室の音や人数、自分の体調との相性)
見学や相談は無料で、かかる費用は交通費くらいです(体験利用の扱いは事業所や自治体によって異なるため、申し込み時に確認してください)。
「見学に行ったら、断りづらくなるのでは」と身構えてしまうかもしれません。でも実際のところ、見学に来た方のうち通所まで進むのは半分以下です(事業所によって差はあります)。
「学習内容が思っていたものと違った」「難しくてついていけなそうだった」「毎日通うのはしんどそうだった」——見送る理由は人それぞれで、断られるのは事業所にとって日常です。気を遣う必要はありません。合わないと感じたら、そのまま帰って別の事業所を見に行けば大丈夫です。
障害者手帳をどう申請するか、手帳なしでも就労移行支援を使えるかは、次の記事にまとめています。


制度そのものをまだ押さえていない方は、こちらから読んでください。


まとめ|IT職を狙うなら、手帳を取ったうえでオープンとクローズの両方を見る
「障害を隠して稼ぐか」 「障害を明かして安定を取るか」
これまで、多くの当事者がこの苦しい二択を迫られてきました。 しかし、本記事でお伝えした通り、専門的・技術的職業は障害者雇用の5.8%ですが、そこに入れば平均から離れた条件を狙えます。「さえあれば大丈夫」ではなく、どの職種に届くかで条件が決まるということです。
無理にクローズにして心を削る必要も、オープンにして生活水準を下げる必要もありません。 大切なのは、今のあなたの状態にとって「どちらが長く、健やかに働けるか」です。
一人で決めなくてかまいません。就労移行支援の無料相談で、いまの体調と経験を伝えて、どちらの枠が現実的かを一緒に整理してもらえます。「隠す」か「明かす」かを決めるのは、自分がどの職種にどこまで届くかが見えてからで間に合います。
配慮と年収を両立させる鍵は、スキルと環境選びです。
オープン就労とクローズ就労に関するFAQ
- クローズ就労で入社して、後からカミングアウトできますか?
-
可能です。ただし、企業側に枠の空きや受け入れ体制がない場合もあるため、最初からオープンにする場合に比べてハードルは高くなります。
- 障害者枠だと、単純作業しかさせてもらえませんか?
-
障害者雇用全体で見ると、その傾向はあります。厚生労働省の調査では、発達障害のある方の職業はサービスの職業が27.1%、事務的職業が22.7%を占め、専門的・技術的職業は5.8%です。つまり開発やテスト、デザインといった専門業務は少数派で、自動的にそこへ行けるわけではありません。だからこそ、どの職種を狙うかを先に決めることになります。
- クローズ就労の場合、源泉徴収票などでバレませんか?
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前職が障害者枠だった場合や、障害者控除を受けていた場合は、年末調整の書類でバレる可能性があります。絶対に隠したい場合は、自分で確定申告をするなどの対策が必要です。
参考にした公的資料
- 厚生労働省「令和5年度 障害者雇用実態調査」(発達障害のある方の平均賃金13万円、週30時間以上で15万5千円、月給制52.3%・時給制44.2%、職業別で専門的・技術的職業は5.8%) https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001233721.pdf (2026年9月8日確認)
- 厚生労働省「障害者の法定雇用率引き上げ」(2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%。対象は従業員37.5人以上) https://www.mhlw.go.jp/content/001064502.pdf (2026年9月8日確認)
- 厚生労働省「障害者雇用対策」(法定雇用率と事業主の義務) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index.html (2026年8月21日確認)
※ この記事は、就労移行支援の運営に5年以上携わった経験と、各事業所・公的機関が公表している情報をもとに作成しています。評価基準や情報の扱い方は運営者情報・編集方針で公開しています。
※ 本記事は特性の理解と働き方の工夫を扱うものであり、医学的な診断・治療の助言を行うものではありません。心身の不調が続く場合は医療機関にご相談ください。
※ 就労移行支援の利用条件・自己負担額・在宅訓練の可否は、お住まいの自治体の判断によって異なります。最新の条件は自治体の障害福祉窓口または各事業所にご確認ください。









