「新しいことに挑戦したい(ADHD)けれど、環境が変わるのは不安(ASD)」「完璧に仕上げたい(ASD)のに、ケアレスミスをしてしまう(ADHD)」
ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)を併発している方は、自分の中に相反する特性を持ち合わせているため、「アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような疲労感」を抱えがちです。
ただ、この組み合わせは例外ではありません。国立精神・神経医療研究センターの研修資料では、ADHDのある人にASDが併存する割合は50%以上、ASDのある人にADHDが併存する割合は20〜50%(臨床例では30〜80%)と示されており、2013年のDSM-5からは両方を併記して診断することが認められています。珍しい状態ではないので、対処のしかたにも型があります。
この記事では先に結論として、「環境はASDに合わせ、仕事の内容はADHDに合わせる」という分け方をお伝えします。そのうえで向いてる仕事5つを表で比べ、なぜこの分け方になるのかを説明します。
- ASDとADHDの特性が、職場でどうぶつかるのか
- 「環境はASD、内容はADHD」で職種をしぼる手順
- 併発の人に向いてる仕事5つと、それぞれでつまずきやすい点
- 会社に配慮を伝えるとき、診断名ではなく何を言えばよいか
- 就労移行支援を「実験場」として使うときに見る点
結論|環境はASDに、仕事の内容はADHDに合わせる
併発の人が仕事選びで迷うのは、どちらの特性に合わせればいいのか分からないからです。ここを1つに決めようとすると必ず矛盾します。分けてしまえば、矛盾しません。
環境はASDに合わせ、仕事内容はADHDに合わせます。静かでルールが決まっている場所(ASD側が楽な環境)で、変化があって飽きにくい仕事(ADHD側が続く内容)をする、という組み合わせです。
この順番には理由があります。仕事内容は入社後に少しずつ動かせますが、オフィスの音や座席、急な予定変更の多さは、入社後に本人の努力では変えられません。動かせないほうを先に決めます。
まず「絶対に無理な環境」を3つ書き出して順位をつける
ADHD側の「やりたい」だけで選ぶと、職場環境がASD側に合わずに破綻します。やりたいことを探す前に、譲れない条件を先に決めてください。
- 音(電話が鳴り続ける、話し声が常にある、フリーアドレスで席が毎日変わる)
- 予定の変わり方(当日に依頼が差し込まれる、その場で判断を求められる)
- 対人の密度(雑談が業務に組み込まれている、来客や電話の一次対応がある)
この3つのうち、自分が最もきついものはどれか。1つに順位をつけると、求人票のどこを見ればいいかが決まります。3つ全部を避けられる仕事はないので、順位をつけることが目的です。
ASD・ADHD併発の人に向いてる仕事5つ

ここではIT・Web系の職種にしぼります。理由は、この分野が在宅勤務の求人が比較的多く、指示や仕様を文章で残す進め方をとっているためで、前の章で挙げた「音・急な予定変更・対人の密度」を職種選びで下げやすいからです。
先に言っておくと、環境と内容の両方が満点の職種はありません。どれかを取ればどれかを諦めます。前の章で決めた順位を持ったまま読んでください。
1. Webコーダー・フロントエンドエンジニア
デザイナーが作った画面の絵を、ブラウザで動く形に組み立てる仕事です。作るものはWebサイトやアプリの画面で、「言われたとおりに正確に作れているか」がそのまま評価になります。未経験からはHTMLとCSSを覚え、自分で作ったページを3〜5本まとめて見せる形で応募するのが一般的な入り方です。
気をつけたいのは、直しの依頼が締切の直前に来たときです。過集中に入って一気に終わらせてしまうと、納品の翌日に動けなくなります。対策は「今日はここまで」を先に決めて、直しの依頼にも同じ線を引くことです。受けた時点で、いつ出すかを相手に言い切ってしまうと止まりやすくなります。
2. テストエンジニア(品質保証)
作られたものが手順書どおりに動くかを確認し、動かないところを見つけて報告する仕事です。この5つのなかで、環境がいちばん静かで予定も動きにくい職種です。未経験の求人が比較的多く、手順書を正確に読める人が評価されるため、ASD側の「決まったとおりにやりたい」がそのまま強みになります。
弱点は、同じ確認が何十回も続くことです。ADHD側が保たなくなり、集中が切れたところで見落としが出ます。対策は確認の回数ではなく時間で区切ることで、「25分やったら5分離れる」のように、切れる前に自分から止まる形にします。
3. Webデザイナー
何のためのページかを聞き取り、載せる情報を整理して、画面の見た目を決める仕事です。5つのなかで内容の変化がいちばん大きく、ADHD側が飽きにくい職種です。未経験からはデザインの道具の使い方を覚え、架空の案件でも構わないので作ったものを見せる形で応募します。
つらいのは直しのやり取りです。「なんとなく違う」という、基準が言葉になっていない指摘が返ってきます。対策は作り始める前に「何を伝えるページか」を一文で書いて確認をもらうことです。基準を先に文字にしておくと、感覚の指摘が来ても戻る場所ができます。
4. 動画編集者
撮られた素材を受け取り、いらない部分を切り、テロップと音を入れて仕上げる仕事です。在宅で完結する案件が多く、音と対人の密度をいちばん下げやすい職種です。未経験からは編集の道具を1つ覚え、自分で作った動画を数本見せる形で始められます。会社勤めのほか、業務委託で受ける形も選べます。
危ないのは受ける瞬間です。相談が重なったときに断る判断が遅れ、納期が同じ週に並びます。対策は受ける前に「今月は何本まで」を数で決めておくことです。数が決まっていれば、断る理由を毎回考えずに済みます。
5. 業務自動化の担当(RPA・VBA)
社内で人が手作業でやっている流れを聞き取り、機械が代わりにやる形に置き換える仕事です。減らした時間がそのまま成果の数字になるため、評価が言葉ではなく数で返ってきます。未経験からはExcelのVBAから入る人が多く、事務の経験がそのまま材料になります。
つまずくのは範囲を決めるところです。頼まれていない部分まで作り込んで、期限を超えます。対策は「今回やるのはここまで」を紙に書いて相手と同意することです。書いてあれば、途中で思いついても次回に回せます。
5つを並べて見る
ここまでの5つを、環境と内容の2軸だけで並べ直したのが次の表です。中身は上の説明のとおりなので、順位をつけるときの見取り図として使ってください。
| 職種 | 環境(静けさ) | 内容(飽きにくさ) |
|---|---|---|
| Webコーダー・フロントエンドエンジニア | 保ちやすい | 案件ごとに変わる |
| テストエンジニア(品質保証) | いちばん静か | 繰り返しが続く |
| Webデザイナー | やり取りが多い | いちばん変わる |
| 動画編集者 | 在宅で完結 | 毎回ちがう |
| 業務自動化の担当(RPA・VBA) | 自席で完結 | 対象が変わる |
1位に挙げた「絶対に無理な環境」を避けられる職種を2つ選び、その2つの中で内容を比べてください。1つに決めないのは、内容が合わなかったときに戻れるようにするためです。
それぞれの職種を未経験からどう目指すか、どの就労移行支援で学べるかは、次の記事で比べています。

なぜ分けるのか|併発で仕事が辛くなる3つのぶつかり方
努力が足りないわけではありません。2つの特性が別々の方向に引っ張るため、同じ場面で反対の反応が起きます。まず、そのぶつかり方を3つに分けます。
1. 「完璧主義」と「不注意」の板挟み
ASDの「細部までこだわりたい」という特性と、ADHDの「不注意・衝動性」が衝突します。頭では100点を目指しているのに、実際にはミスが出る。このギャップが「自分はダメだ」という自己否定につながり、うつや適応障害といった二次障害の入り口になります。
先ほどの研修資料でも、不安症や抑うつ障害は「特性による不適応から派生する二次障害のことも多い」と説明されています。順番としては、性格を直すより先に環境を変えるほうが早いということです。
2. 人間関係の「距離感」がつかめない
ADHD側の思いついたままの発言と、ASD側の場の空気に沿わない発言が、同じ人の中で混ざります。「昨日は明るく話せたのに、今日は誰とも話したくない」という差も出やすく、職場では「気分屋」と誤解されがちです。
本人の中では一貫していても、周りからは日によって別人に見えるのがこの組み合わせの難しさです。
3. 「過集中」と「感覚疲労」のズレ
ADHDの過集中で走っている間、ASD側の感覚過敏による疲労は静かにたまり続けます。集中しているうちは疲れに気づけず、終わった瞬間に動けなくなる。回復に数日から数週間かかることもあり、周囲からは「急に休む人」に見えます。
この3つはどれも、性格を直して解決するものではありません。ぶつかりが起きにくい場所を選ぶほうが確実です。その順位が、次に説明する準備の中身も決めます。
入社後に燃え尽きないために、応募前にやっておくこと
職種を決めても、働き方の準備がないと同じところで止まります。応募前にやっておくと差が出るのは、次の2つです。
1. 「電池切れ」の予兆を3つだけ決めておく
過集中で走り続けて突然倒れるのを防ぐには、倒れる前に出るサインを自分で知っておく必要があります。ただ、記録する項目が多いと続きません。3つだけ決めて、1日1回チェックしてください。
- 体に出るもの(例:あごに力が入る、耳鳴りがする、肩が上がったままになる)
- 行動に出るもの(例:食事を抜く、入浴を後回しにする、返信が止まる)
- 考えに出るもの(例:「あと少しで終わる」と何度も思う、時計を見なくなる)
この3つのうち2つが出たら、その日は終わりにする。ルールを先に決めておくのは、過集中の最中は自分で判断できないからです。就労移行支援に通う場合は、この記録を支援員と一緒に見ると精度が上がります。
やることを同時に抱えて回らなくなる場面が多い方は、こちらも参考になります。

2. 配慮は診断名ではなく「いつ・何に困るか」で伝える
「ASDとADHDがあります」とだけ伝えても、会社側は何をすればいいか分かりません。伝えるべきなのは診断名ではなく、どの場面で困り、どうしてもらえれば働けるかです。
併発の場合、ここが少し特殊になります。ADHD側の配慮とASD側の配慮を、両方まとめて出す必要があるからです。
- ADHD側:「口頭だけの指示は抜けます。チャットで箇条書きにしてもらえると、こちらで確認できます」
- ASD側:「予定変更は前日までに教えてください。当日の差し込みだと、その日の作業が止まります」
- 両方に効くもの:「締切は最終日だけでなく、途中で一度区切ってもらえると走りすぎません」
この形なら、会社は「やること」として受け取れます。診断名を伝えるかどうかと、配慮を求めるかどうかは別の話で、開示の範囲は自分で決められます。障害者雇用枠と一般枠のどちらで応募するかも含めて、次の記事で整理しています。

就労移行支援を「実験場」として使う
ここまでの内容は、一人で進めるのが難しいものばかりです。自分がどの環境で何時間もつのか、どの配慮があれば働けるのかは、実際に試さないと分かりません。
就労移行支援は障害福祉サービスの1つで、原則2年まで、就職に向けた訓練と相談を受けられます。ここを「失敗しても給料が下がらない場所」として使うのが、併発の方にとっていちばん現実的な進め方です。実際のオフィスに近い環境で、電池切れの予兆も配慮の言い方も、通いながら試せます。
併発の方が見るとよい事業所を、性格の違う3社挙げます。どれが良いかではなく、自分が何を試したいかで選んでください。
運営側の視点見学のときに「特性を整理する時間は訓練に入っていますか」と聞く方は多くありません。ですが、この質問への答えで事業所の性格ははっきり分かれます。予定に組み込んでいるところと、希望した人にだけ個別に対応するところがあります。併発の方は前者のほうが進めやすくなります。
発達障害の特性理解から始めたいなら|ディーキャリアITエキスパート


発達障害のある方に対象をしぼった就労移行支援で、IT・Web の基礎と模擬業務を組み合わせています。自分の特性を整理する時間が訓練に組み込まれているため、「環境はASD、内容はADHD」の分け方を、支援員と一緒に自分の言葉に落とせます。13都道府県に拠点があります。
特性の整理から始めたい方へ
実際の職場に近い環境で試したいなら|Kaien


模擬職場の形で実務を進める訓練が中心です。指示を受けて作業し、報告して修正する流れをそのまま体験できるので、過集中でどこまで走ってしまうか、予定変更にどう反応するかが、通いながら見えます。Web制作のほか、生成AIやVBAを使った業務も扱っています。
職場に近い環境で自分を試したい方へ
教室に通うのが負担なら|manaby(マナビー)


在宅で受けられるeラーニングに特化した就労移行支援です。教室の音や人数が最初のハードルになる方は、通所の負担を外したうえで学べます。デザインとプログラミングを自分のペースで進められるため、感覚過敏の影響を受けにくい進め方です。在宅訓練を使えるかは自治体の判断によるので、相談時に確認してください。
通所の負担を外して学びたい方へ
気になる事業所が見つかったら、次にやることは1つだけです。
1社だけ見て決めず、2〜3社を見学・体験して比べてください。パンフレットや口コミでは分からず、実際に足を運んで初めて分かるのは次の3点です。
- 支援員との相性(毎日顔を合わせる相手が、自分に合う話し方をするか)
- 学習内容(カリキュラム名ではなく、実際に何を作り、どう就職につなげるのか)
- 通い続けられるか(通所ルートの負担、教室の音や人数、自分の体調との相性)
見学や相談は無料で、かかる費用は交通費くらいです(体験利用の扱いは事業所や自治体によって異なるため、申し込み時に確認してください)。
「見学に行ったら、断りづらくなるのでは」と身構えてしまうかもしれません。でも実際のところ、見学に来た方のうち通所まで進むのは半分以下です(事業所によって差はあります)。
「学習内容が思っていたものと違った」「難しくてついていけなそうだった」「毎日通うのはしんどそうだった」——見送る理由は人それぞれで、断られるのは事業所にとって日常です。気を遣う必要はありません。合わないと感じたら、そのまま帰って別の事業所を見に行けば大丈夫です。
就労移行支援の利用条件や、費用がどうなるかは次の記事にまとめています。


まとめ|ASD・ADHD併発の仕事選びは、環境と内容を分けて決める
ASDの自分とADHDの自分、どちらかを消す必要はありません。矛盾したままでも、環境と内容を分けて選べば働けます。順番に進めてください。
音、予定の変わり方、対人の密度。この3つのうち自分が最もきついものはどれかを決めます。順位が決まると、次に見る求人票の場所が決まります。
1位に挙げた環境を避けられる職種を、この記事の表から2つ選びます。1つに決めないのは、内容が合わなかったときに戻れるようにするためです。
見学では「選んだ2つの職種の訓練があるか」「特性を整理する時間があるか」を同じ言葉で聞き、答えを並べて比べます。同じ質問をするから比べられます。
併発の特性に合う事業所を、同じ基準で比べたい方へ
ASD・ADHD併発の仕事に関するFAQ
- 障害者手帳の診断名はどうなりますか?
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主治医の判断によりますが、両方の診断名がつくこともあれば、主症状(生活への支障が大きい方)のみが記載されることもあります。就労移行支援や障害者雇用の利用においては、診断書にいずれかの記載があれば利用できます。
- ASD優位かADHD優位か、自分でどう見分けますか?
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正確な判断は主治医の領域ですが、仕事選びの目安としては「1日が終わったとき、何に疲れているか」で分けられます。音や人の気配、予定の変更で消耗しているならASD側の負担が大きく、同じ作業の繰り返しや、手をつけられないまま時間が過ぎることで消耗しているならADHD側です。1週間分メモを取ると、どちらが多いかが見えます。
- 在宅勤務なら、併発の負担は減りますか?
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音と対人の密度は確実に下がります。一方で過集中を止める人がいなくなるため、働きすぎの面は在宅のほうが悪化することがあります。在宅を選ぶなら、終了時刻のアラームや、始業と終業の報告といった外からの区切りを最初に用意してください。
- 服薬しています。就労移行支援は使えますか?
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使えます。通院や服薬をしながら通っている方は多く、通院日を訓練の予定に組み込む形も一般的です。薬の内容や量については主治医と相談する話になりますが、「服薬しているから利用できない」ということはありません。
- 併発だと、障害者雇用枠のほうがいいですか?
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一概には言えません。障害者雇用枠は配慮を前提に採用が進むぶん、この記事で挙げた「予定変更は前日まで」といった依頼が通りやすくなります。一方で求人の職種は一般枠のほうが広いので、配慮がどれだけ必要かと、狙う職種が枠内にあるかの2つで決めます。IT職の場合は枠内でも求人があるため、両方を見て比べるのが現実的です。
参考にした公的資料
- 厚生労働省「発達障害者支援施策」(発達障害の定義と支援の仕組み) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hattatsu/index.html (2026年8月21日確認)
- 国立精神・神経医療研究センター「科目5 精神疾患の基礎知識 講義2-3 発達障害」(ASDとADHDの併存率、DSM-5での併存の扱い、二次障害) https://www.ncnp.go.jp/nimh/chiiki/seminar/pdf/5-2-3.pdf (2026年9月4日確認)
※ この記事は、就労移行支援の運営に5年以上携わった経験と、各事業所・公的機関が公表している情報をもとに作成しています。評価基準や情報の扱い方は運営者情報・編集方針で公開しています。
※ 本記事は特性の理解と働き方の工夫を扱うものであり、医学的な診断・治療の助言を行うものではありません。心身の不調が続く場合は医療機関にご相談ください。
※ 就労移行支援の利用条件・自己負担額・在宅訓練の可否は、お住まいの自治体の判断によって異なります。最新の条件は自治体の障害福祉窓口または各事業所にご確認ください。









