「就労移行支援を使いたいが、まだ障害者手帳を持っていない」「手帳の申請には2か月ほどかかると言われた。届くまで待つしかないのか」。
待つ必要はありません。就労移行支援は、障害者手帳が手元になくても、医師の判断があれば使えます。手帳を「利用の許可証」だと思い込んで、交付を待つおよそ2か月を自宅で過ごしてしまう方が多いのですが、書類さえ用意できれば申請中でも通い始められます。
この記事は手帳が無い場合だけを扱います。手帳の代わりに出せる書類、主治医に意見書を頼むときの伝え方、自治体で断られたときの手、そしてそもそも手帳を取ったほうがいいのかまでを書きます。利用条件そのもの(年齢・大学生・休職中など)は別の記事にまとめています。
- 手帳の代わりに出せる4つの書類と、どれがいちばん早いか
- 主治医に意見書を頼むとき、何を伝えれば話が早いか
- 自治体で「手帳が要る」と言われたときにできること
- 手帳は結局、取ったほうがいいのか(取る・取らないで就職活動がどう変わるか)
結論|就労移行支援に手帳は要らない。要るのは受給者証
就労移行支援を使うために必要なのは、手帳ではなく「障害福祉サービス受給者証」です。市区町村が発行します。
受給者証を出してもらうために自治体が確認するのは、「その人に就労の訓練が必要か」の1点です。手帳はそれを示す書類のひとつにすぎず、ほかの書類でも代わりになります。
確定診断が出ていない、いわゆるグレーゾーンの方も対象です。医師が「発達障害の傾向があり、いま就労や生活に支障が出ている」と判断すれば意見書は書かれます。

手帳の代わりに出せる4つの書類|どれがいちばん早いか
次の4つのどれかがあれば、受給者証の申請ができます。いちばん早いのは主治医の意見書です。
| 出す書類 | 手に入るまで | 費用の目安 | 通りやすさ |
|---|---|---|---|
| 主治医の意見書・診断書 | 依頼から1〜2週間 | 数千円(自費・病院で異なる) | 自治体で運用に差がある |
| 自立支援医療受給者証 | 通院していれば1〜2か月 | 診断書代(病院で異なる) | 通ることが多い |
| 障害年金の証書 | すでに受給していれば即日 | なし(手元にある書類) | 手帳と同じ扱い |
| 障害者手帳 | 申請からおおむね2か月(自治体で差) | 診断書代(病院で異なる) | どの自治体でも通る |
費用は病院ごとに決めているので、金額は受診前に窓口で確認してください。自立支援医療は、通院にかかる医療費の自己負担を軽くする国の制度で、精神科に継続して通っている方が対象です。手帳より取りやすく、受給者証の申請にも使えるので、まだ持っていないなら主治医に一緒に相談してください(負担の割合や有効期間は自治体の窓口で確認してください)。
主治医に意見書を頼むとき|何を伝えれば話が早いか
ここでつまずく方が多いので、詳しく書きます。意見書は手帳申請用の診断書とは違い、A4用紙1枚程度の簡単なもので済むことが多い書類です。
ただし、「就労移行支援を使いたいので意見書をください」だけだと、その場で返事をもらえないことがあります。主治医が判断しているのは「いまの体調で、その通所に耐えられるか」だからです。判断に要る材料を先に渡してください。
- 通いたい事業所の名前
- 先に見学を済ませておくと、ここが答えられます。事業所が決まっていない段階で受診すると「決まってからまた来て」となりがちです。見学が先、受診が後の順番が早く進みます。
- 週に何日、何時間通うつもりか
- 主治医がいちばん気にするところです。「週5日フルタイム」だと止められても、「週3日・午前だけから始めて様子を見る」なら通ることがあります。事業所は短い日数から始める形にも対応できるので、見学で相談しておいてください。
- 通所にかかる時間と経路
- 片道1時間半の満員電車と、徒歩15分では、体への負担がまったく違います。ここを言えると、主治医は通所の可否を具体的に判断できます。
- いつまでに書類が要るか
- 意見書は次の診察までに用意されることが多く、依頼から1〜2週間が目安です。急ぐ事情があるなら、その場で伝えてください。
運営側の視点診察の時間は短く、緊張して言いたいことが飛ぶ方も多いです。上の4つを紙に書いて持っていって、そのまま渡してしまうのが確実です。口で説明しなくても、医師は必要な情報を受け取れます。
自治体で「手帳が要る」と言われたときにできること
受給者証を出すかどうかを決めるのは市区町村です。多くの自治体は意見書で認めますが、「原則として手帳が必要」という運用をしている地域もあります。窓口の担当者によって答えが違うこともあります。
断られたときに、自分ひとりで交渉する必要はありません。順番にこうしてください。
窓口へ行く前に、通いたい事業所に「この市は意見書で通りますか」と聞いてください。事業所は同じ自治体で何件も申請を通しているので、その市の運用を知っています。これだけで空振りが防げます。
申請の窓口に一緒に来てくれる事業所は多くあります。支援の必要性を職員が説明することで通る場合があります。一人で説明するのが不安なら、見学のときに同行を頼めるか聞いてください。
意見書だけで通らない自治体でも、自立支援医療受給者証があれば認められることが多くあります。手帳より早く取れるので、手帳を待つより現実的です。
手帳は結局、取ったほうがいいのか
就労移行支援に通うためには要りません。ただし就職の段階で効いてきます。通い始めたあとで迷う方が多いので、先に整理しておきます。
| できること | 手帳あり | 手帳なし |
|---|---|---|
| 就労移行支援に通う | できる | できる |
| 障害者雇用枠に応募する | できる | できない |
| 一般雇用枠に応募する | できる | できる |
| 合理的配慮を頼む | 頼める | 頼めるが通りにくい |
差が出るのは障害者雇用枠に応募できるかどうかです。障害者雇用枠は、勤務時間や通院への配慮を前提に採用してくれる枠なので、体調に波がある方には効きます。
合理的配慮そのものは手帳の有無に関係なく頼めます。診断があれば「指示は文字でほしい」「通院日は休みたい」と伝えられます。一般雇用枠でも、合理的配慮の提供が事業主の義務であることは変わりません(障害者雇用促進法。事業所の規模・業種を問いません)。例外は「過重な負担」にあたる場合で、そのときは事業主が別の方法を示すことになります。ただ、障害者雇用枠は配慮を前提に採用しているぶん、実務としては話が早く進みます。
制度ごとに手帳が要るか要らないかは、早見表にまとめています。


訓練中に「非該当」だった場合
手帳の申請が通らなかった(非該当)場合でも、就労移行支援の利用はそのまま続けられます。変わるのは就職活動の進め方だけで、障害を伏せて一般雇用枠に応募するか、開示したうえで一般雇用枠に応募するかを選ぶことになります。事業所は両方のパターンを扱っているので、結果が出た時点で担当者に相談してください。


手帳の申請と並行して、先に通い始める
手帳の申請から交付まではおおむね2か月かかります(東京都は紙の手帳で2か月程度・カード形式で2か月半程度、横浜市も2か月程度と案内しています)。この期間を自宅で待つ必要はありません。順番はこうです。
- 事業所を2〜3か所見学する(手帳がなくても見学できます)
- 通う先を決めてから受診し、意見書をもらう
- 受給者証を申請して通所を始める
- 並行して手帳を申請し、訓練中に交付を受ける
この順番なら、手帳が届くころには訓練が進んでいて、そのまま障害者雇用枠での就職活動に移れます。待っているおよそ2か月を、生活リズムを整える期間とスキルを積む期間にできます。
見学は1社だけ見て決めないでください。実際に足を運んで初めて分かるのは、支援員との相性、カリキュラム名ではなく実際に何をするか、通い続けられるかの3つです。見学や相談は無料で、かかるのは交通費くらいです。
「見学に行ったら断りづらいのでは」と身構えるかもしれませんが、見学に来た方のうち通所まで進むのは半分以下です(事業所によって差があります)。合わないと感じたら、そのまま帰って別のところを見に行って大丈夫です。
まとめ|手帳がなくても、医師の意見書があれば就労移行支援に通える
手帳の交付を待つ必要はありません。要るのは医師の意見書と、通う先を決めておくことの2つです。
手帳が無いことを最初に伝えてください。「この市は意見書で通りますか」「申請の窓口に同行してもらえますか」の2つを必ず聞きます。ここで通う先が決まると、受診の話が一気に早くなります。
事業所名/週に何日・何時間/通所にかかる時間/いつまでに要るか、の4つを紙に書いて渡します。口で説明できなくても大丈夫です。自立支援医療をまだ持っていないなら、同じ診察で相談してください。
通所を始めながら手帳の申請を進めます。訓練中に交付されれば、そのまま障害者雇用枠での就職活動に移れます。非該当だった場合の進め方は、その時点で担当者に相談すれば間に合います。
年齢や在学中・休職中など、手帳以外の利用条件が気になる場合はこちらにまとめています。


意見書の前に、通う先を決めてください。
就労移行支援を手帳なしで使うときのよくある質問
- 手帳なしだと利用料は高くなりますか?
-
なりません。利用料は世帯の所得に応じた負担上限月額で決まり、手帳の有無は関係ありません。市町村民税が非課税の世帯は0円です。別途かかるのは、意見書の作成費(数千円・自費)だけです。
- 主治医に「就労移行支援はまだ早い」と言われました
-
意見書が出ない以上、申請は通りません。ただし「週5日フルタイム」を前提に止められていることがあります。週2〜3日・短時間から始める形なら通ることもあるので、事業所に短い日数から始められるか確認したうえで、もう一度相談してみてください。それでも止められるなら、いまは治療を優先してください。
- 診断が出ていない(グレーゾーン)のですが使えますか?
-
使えます。確定診断がなくても、医師が「傾向があり、いま就労や生活に支障が出ている」と判断すれば意見書は書かれます。まだ受診していない場合は、何に困っているか(仕事が続かない・眠れない・人と話すと消耗する)を具体的に伝えると話が進みます。
- 手帳なしで通い始めて、そのまま就職できますか?
-
できます。ただし障害者雇用枠には応募できないので、一般雇用枠での就職になります。障害者雇用枠を狙うなら、通いながら手帳を申請してください。訓練中に交付されれば、そのまま障害者雇用枠に切り替えられます。
- 自立支援医療と障害者手帳は、どちらを先に取るべきですか?
-
通所を早く始めたいなら自立支援医療が先です。手帳より早く取れて、受給者証の申請にも使えます。医療費の負担も軽くなるので、精神科に継続して通っているなら、手帳の申請と同時に相談しておくと無駄がありません。負担の割合や有効期間は自治体で確認してください。
参考にした公的資料
- 厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳」(等級は1級から3級。申請は市町村の担当窓口を経由して都道府県知事または指定都市市長へ) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/techou.html (2026年9月4日確認)
- 厚生労働省「自立支援医療」(心身の障害を除去・軽減するための医療について自己負担額を軽減する公費負担医療制度。精神通院医療の対象は、通院による精神医療を継続的に要する方) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/index.html (2026年9月4日確認)
- 厚生労働省「障害者の利用者負担」(世帯所得に応じた負担上限月額) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/hutan1.html (2026年9月4日確認)
- 厚生労働省「発達障害者支援施策」(発達障害の定義と支援の仕組み) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hattatsu/index.html (2026年9月4日確認)
- ※ 意見書や診断書の費用は病院ごとに決められており、金額は受診前に窓口でご確認ください。
- ※ この記事は、就労移行支援の運営に5年以上携わった経験と、各事業所・公的機関が公表している情報をもとに作成しています。評価基準や情報の扱い方は運営者情報・編集方針で公開しています。
- ※ 就労移行支援の利用条件・自己負担額・受給者証の判断は、お住まいの自治体によって異なります。最新の条件は自治体の障害福祉窓口または各事業所にご確認ください。








