「就労移行支援に通ってスキルをつけたい。でも、その間の生活費がない」 「作業をするのに給料が出ないのは、タダ働きではないのか?」
就職に向けた訓練期間、もっとも高いハードルとなるのが「お金」の問題です。 A型事業所と混同されがちですが、結論から言えば、就労移行支援では原則として給料(賃金)は出ません。
「じゃあ、実家暮らしの余裕がある人しか使えないのか?」 いいえ、そんなことはありません。国は、本気で就職を目指す人が生活に困らないよう、いくつかのセーフティネットを用意しています。
本記事では、就労移行支援とお金の関係を法的に正しく解説し、貯金ゼロからでも無収入期間を乗り切るための公的制度について詳しく紹介します。
- 就労移行支援で給料が出ない理由と、A型事業所との違い
- 生活費を守りながら通うための4つの公的制度
- 金銭的負担を減らす事業所選びのポイント
結論|いまの立場で使える制度が違う。休職中なら傷病手当金、退職後なら失業給付
先に結論です。就労移行支援に給料は出ません。ただし、生活費をどう作るかは、いまのあなたの立場で決まります。順に見るのは次の3つです。
| いまの立場 | まず使う制度 | 目安 |
|---|---|---|
| 在職中で休職している | 傷病手当金 | 標準報酬日額の約3分の2を通算1年6か月 |
| 退職して求職中 | 失業給付(基本手当) | 離職前の賃金と年齢で決まる |
| どちらも使えない | 障害年金 | 障害基礎年金2級で月額約70,608円 |
この3つでも足りないときの最後の受け皿が生活保護です。あわせて、通院費の自己負担を1割にする自立支援医療で支出のほうも下げられます。
【原則】就労移行支援で「給料」は出ない
まずは制度の仕組みを誤解なく理解しましょう。ここは「働く場所」ではなく「学校」に近い場所だからです。
「雇用契約」がないため賃金は発生しない
就労移行支援は、一般就労を目指すための職業訓練を受ける障害福祉サービスです。事業所と利用者の間に雇用契約は結ばれないため、労働基準法上の賃金(給料)は発生しません。
発達障害(ASD・ADHD)のある方にとって、これは収入が止まる代わりに、働き方の条件を作り直せる期間という意味です。通いながら、指示は文章でもらう・予定の変更はチャットで残すといった合理的配慮の頼み方を決めておけます。就職してから言い出すより、通っている間に支援員と作るほうが通ります。
「工賃」が出るケースもあるが稀
一部の事業所では、パン作りや軽作業などの生産活動を行い、その収益を「工賃」として利用者に還元する場合があります。 しかし、これはあくまで成果報酬的なものであり、金額は月額数千円〜1万円程度が相場です。生活費を賄えるレベルの収入には絶対になりません。 特に、IT特化型の事業所では学習(インプット)がメインとなるため、工賃は「0円」であることがほとんどです。
給料が出る「A型事業所」との決定的な違い
「お金がないから」といって、安易にA型事業所(就労継続支援A型)を選ぶのは慎重になるべきです。両者は目的が全く異なるからです。就労継続支援A型・B型でITの仕事や学習がどこまでできるかは、別の記事で数字を並べています。

なお、就労移行支援そのものの利用条件と、世帯の所得で決まる利用料の区分は次の記事にまとめています。

就労継続支援A型(福祉的就労)
- 金銭
-
雇用契約あり。最低賃金以上の給料が出る。
- 実態
-
「今の能力でできる仕事」をする場所です。単純作業が中心になりやすく、スキルアップして一般企業へ転職(卒業)するハードルは高くなります。
- リスク
-
「働いているのに低賃金」という状態が固定化し、そこから抜け出せなくなる可能性があります。
就労移行支援(一般就労への訓練)
- 金銭
-
給料なし。
- 実態
-
一般企業で通用するスキルを身につける場所です。
- リターン
-
一時的に収入は途絶えます。厚生労働省の令和5年度障害者雇用実態調査では、発達障害のある方の1か月の平均賃金は13万円、週30時間以上で働く方に絞っても15万5千円です。これを上回るには職種を選ぶ必要があり、専門的・技術的職業に就いている方は5.8%にとどまります。就労移行支援に通う意味は、この5.8%の側に届く準備をすることにあります。
運営側の視点お金の相談を後回しにして、通い始めてから続かなくなる方がいます。見学のときに「通っている方は、生活費をどうしているのが多いですか」と聞いてください。答えられる事業所は、申請の段取りまで一緒に見てくれます。
生活費を確保しながら通うための「4つの公的制度」
給料が出ない期間、どうやって生活するか。以下の制度が利用できないか、ハローワークや自治体で確認してください。 制度名をクリックすると、厚生労働省や年金機構の公式ページへ飛びます。
1. 雇用保険(失業手当)
会社を退職して求職中の方は、失業手当(基本手当)を受給しながら就労移行支援に通うことができます。 通常、失業手当をもらうには「求職活動実績」が必要ですが、「就労移行支援に通うこと」自体が実績として認められるケースが多く、受給期間を有効に使って訓練を受けられます。
もう1つ、もらえる日数そのものが変わります。障害者手帳を持っている方などは雇用保険の「就職困難者」に当たり、一般の離職者より所定給付日数が長く設定されています。該当するかどうかはハローワークが判断します。
| 区分 | 雇用保険に入っていた期間が1年未満 | 1年以上 |
|---|---|---|
| 就職困難者(45歳未満) | 150日 | 300日 |
| 就職困難者(45歳以上65歳未満) | 150日 | 360日 |
| 一般の離職者(全年齢) | 90日 | 90日(10年未満) |
3年勤めて辞めた30歳の方なら、一般の離職者としては90日ですが、就職困難者に当たれば300日です。差は210日、およそ7か月あります。就労移行支援は原則2年通えるので、この日数の差はそのまま「生活費の心配をせずに訓練できる期間」になります。
手帳をまだ持っていない場合、申請から交付まで1〜2か月かかります。退職を考えている段階で、ハローワークの障害者専門の窓口に「自分は就職困難者に当たりますか」と先に聞いてください。順番を間違えると、長いほうの日数で受けられないことがあります。
2. 休職中なら傷病手当金(通算1年6か月)
いま在職中で休職している方は、まず健康保険の傷病手当金です。標準報酬日額のおよそ3分の2が、支給開始日から通算して1年6か月まで支払われます。要件は4つです。
- 業務外の病気やけがの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができない状態であること
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
退職しても終わりではありません。退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あり、退職日の前日に傷病手当金を受けているか受けられる状態なら、退職後も引き続き受け取れます(継続給付)。就労移行支援に通いながら受け取れるかは、「仕事に就くことができない状態」に当たるかどうかの判断になるので、通い始める前に、加入している健康保険の窓口と主治医に確認してください。
参考リンク: 全国健康保険協会 – 傷病手当金
3. 障害年金
初診日から1年6か月が過ぎ、障害の状態が等級に当たれば、障害年金を受け取れます。障害基礎年金は令和8年度で1級が年1,059,125円(月額約88,260円)、2級が年847,300円(月額約70,608円)です(昭和31年4月2日以後生まれの場合。日本年金機構・2026年9月8日確認)。厚生年金に加入していた期間に初診日があれば、障害厚生年金が上乗せされます。
申請には初診日の証明と、初診日の前々月までの保険料納付の要件があります。初診日がいつだったかで結果が変わるので、診断書を書いてもらう前に、初診日がどこになるかを主治医と確認してください。
参考リンク:日本年金機構 – 障害年金
4. 生活保護
「実家も頼れず、貯金も制度も使えない」という場合の最終手段です。 生活保護を受給しながら就労移行支援に通い、社会復帰を目指すことは認められています。まずは「福祉事務所」のケースワーカーへ相談し、「就労による自立を目指したい」という意思を伝えてください。
参考リンク:厚生労働省 – 生活保護制度
「月10万円の職業訓練受講給付金」は、就労移行支援では使えません
求職者支援制度の職業訓練受講給付金(月10万円)を「就労移行支援でももらえる」と書いている記事がありますが、誤りです。厚生労働省の案内では、給付金の対象は求職者支援訓練または公共職業訓練を受講中の方に限られています。就労移行支援は障害福祉サービスなので、この制度の訓練には当たりません。窓口で聞く前に、ここを間違えないでください。
発達障害の場合、申請の順番を先に決めておく
発達障害(ASD・ADHD)のある方がつまずきやすいのは、制度そのものより申請の段取りです。窓口が別々で、書類の締切もばらばらなので、同時に走らせようとすると抜けます。順番を決めて1つずつにしてください。
- いま:受給者証の申請(自治体の障害福祉窓口)。これが無いと通えない
- いま:自立支援医療の申請(同じ窓口で一緒に出せることが多い)
- 通いながら:障害者手帳の申請。精神障害者保健福祉手帳は初診日から6か月を過ぎた診断書が要る
- 通いながら:障害年金の相談。初診日から1年6か月が条件
つまずき方は特性で違います。ASDの方は、記入例と実物の様式が少し違うだけで手が止まります。窓口で「記入例のとおりに書けばよいか」を先に確かめると進みます。ADHDの方は、締切のある書類を後回しにしているうちに診断書の有効期限が切れることがあります。受け取ったその日に、提出期限をカレンダーへ入れてください。
書類の準備が1人では進まないときは、通い始めたあとに支援員と一緒にやることもできます。これは合理的配慮として頼める範囲なので、見学のときに「申請の書類を一緒に見てもらえますか」と聞いておくと確実です。
障害者手帳を取っても、開示するかどうかは別に決められる
手帳を申請すると「障害者雇用枠で就職すると決めたことになる」と思って止まる方がいますが、そうではありません。手帳を持っていても一般枠に応募できます。逆は効きません。手帳が無いと障害者雇用枠には応募できないので、開示するかどうかを決める前に、申請だけ進めておくほうが選択肢が減りません。どこまで会社に伝えるかは、就職活動の段階で支援員と決められます。
ここで挙げた4つ以外にも、手帳が無くても使える制度はあります。制度ごとに手帳の要否・金額・窓口を1枚に並べた早見表を用意しました。数字には出典のURLと確認日を付けています。


金銭的負担を少しでも減らすための「事業所選び」
収入を増やすだけでなく、支出を減らす視点も重要です。事業所選びでコストは大きく変わります。
交通費・昼食代の助成制度
通常、通所にかかる交通費や昼食代は自己負担ですが、これらを独自に助成(補助)している事業所があります。
- 自治体の助成
-
お住まいの地域によっては、通所交通費が支給される場合があります。
- 事業所の助成
-
交通費と昼食を補助している事業所を選ぶ|Cocorport(ココルポート)


出典:Cocorport(ココルポート)公式サイト Cocorport(ココルポート)の金銭サポートと評判は、別の記事にまとめています。
例えばCocorport(ココルポート)などの大手総合型では、交通費やランチ代を補助する制度を持っています。 月々の出費が1〜2万円変わるため、経済的にギリギリの方は、こうした補助のある事業所を比較検討してください。
「バイト併用」は原則禁止と心得ておく
「足りない分は夜にバイトで稼ごう」と考えるかもしれませんが、原則として就労移行支援とアルバイトの併用は認められない自治体が多いです。 「バイトできる体力があるなら、支援を使わず働けるはず」と判断されるためです。 ※生活困窮などの事情により例外的に認められるケースもありますが、役所への相談なしに無断で行うとトラブルの原因になります。
あわせて、就労移行支援の仕組みと利用条件もご覧ください。
ここまで挙げた事業所は、どれも公式情報で確認できる範囲の違いです。
1社だけ見て決めず、2〜3社を見学・体験して比べてください。パンフレットや口コミでは分からず、実際に足を運んで初めて分かるのは次の3点です。
- 支援員との相性(毎日顔を合わせる相手が、自分に合う話し方をするか)
- 学習内容(カリキュラム名ではなく、実際に何を作り、どう就職につなげるのか)
- 通い続けられるか(通所ルートの負担、教室の音や人数、自分の体調との相性)
見学や相談は無料で、かかる費用は交通費くらいです(体験利用の扱いは事業所や自治体によって異なるため、申し込み時に確認してください)。
「見学に行ったら、断りづらくなるのでは」と身構えてしまうかもしれません。でも実際のところ、見学に来た方のうち通所まで進むのは半分以下です(事業所によって差はあります)。
「学習内容が思っていたものと違った」「難しくてついていけなそうだった」「毎日通うのはしんどそうだった」——見送る理由は人それぞれで、断られるのは事業所にとって日常です。気を遣う必要はありません。合わないと感じたら、そのまま帰って別の事業所を見に行けば大丈夫です。
まとめ|今週やるのは、窓口を1つ決めて相談の予約を入れることだけ
就労移行支援に通う期間は、確かに経済的に苦しい時期になります。 しかし、そこで安易に「給料が出る場所(A型等)」に流れるのか、公的制度を駆使して「スキルを身につける期間(就労移行支援)」と割り切るのかで、その後の人生は大きく変わります。
「今の生活費」と「将来の年収」。 天秤にかけた上で、まずはハローワークや自治体の障害福祉課で、「自分が使える制度はあるか」を確認することから始めてみてください。
生活費の見通しが立ったら、次は通う場所選びです。
就労移行支援の給料・費用に関するFAQ
- 本当に給料(工賃)は一切出ないのですか?
-
原則として出ません。一部の事業所では作業に対する「工賃」が出ますが、月額数千円程度であり、給料と呼べる額ではありません。ITスキルなどを学ぶ事業所では、工賃は0円と考えておいてください。
- 逆に、通うのにお金(利用料)はかかりますか?
-
前年度の世帯所得で決まります。生活保護受給世帯と市町村民税非課税世帯は0円で、単身で年収がおおむね300万円以下ならここに当たることが多いため、負担がない方が多くなります。「利用者の9割以上が0円」という数字を公表している事業所もありますが、これは事業所ごとの割合なので、通う先によって変わります。自分がどの区分になるかは、自治体の障害福祉窓口で確認できます。
- 交通費は自己負担ですか?
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原則は自己負担です。ただし、自治体によっては交通費助成が出る場合や、事業所が独自に負担してくれる場合があります。遠方から通う場合は、交通費が大きな出費になるため、見学時に必ず確認すべきポイントです。
- 昼食(ランチ)は出ますか?
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事業所によります。「お弁当無料提供」を行っている所もあれば、各自持参・外食(自己負担)の所もあります。毎日のことなので、経済的な影響は大きいです。ここも事業所選びの重要な比較ポイントになります。
参考にした公的資料
- 厚生労働省「求職者支援制度に関するよくあるご質問」(職業訓練受講給付金の対象は求職者支援訓練または公共職業訓練の受講中) https://www.mhlw.go.jp/content/000960250.pdf (2026年9月8日確認)
- ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」(就職困難者は45歳未満で1年未満150日・1年以上300日、45歳以上65歳未満で1年以上360日。一般の離職者は全年齢で1年未満90日・1年以上10年未満90日) https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_benefitdays.html (2026年9月11日確認)
- 全国健康保険協会「傷病手当金」(支給要件4つ、支給開始日から通算1年6か月、退職後の継続給付) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/injury_and_sickness_allowance/index.html (2026年9月8日確認)
- 日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」(令和8年度 1級1,059,125円 / 2級847,300円) https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150514.html (2026年9月8日確認)
- 厚生労働省「自立支援医療制度の概要」(自己負担は原則1割。世帯の所得に応じた月額上限) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/gaiyo.html (2026年9月8日確認)
- 厚生労働省「令和5年度 障害者雇用実態調査」(発達障害のある方の平均賃金13万円、週30時間以上で15万5千円、専門的・技術的職業は5.8%) https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001233721.pdf (2026年9月8日確認)
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