「未経験からITスキルを身につけて、専門職として働きたい」 そう考えて就労移行支援を探し始めると、多くの事業所が見つかります。しかし、中には「IT特化」と名乗りながら、実態は自習室のような環境で放置されるだけの場所や、希望とは異なる職種へ誘導されるケースも少なくありません。
本記事では、後悔しない就職を実現するために必要な「IT系就労移行支援の選び方」を解説します。 「通いやすさ」などの基本的なチェックポイントに加え、見学時に必ず確認すべき「運営の実態を見抜く裏チェックリスト」も公開します。これを知っているだけで、事業所選びの失敗確率はぐっと下がります。
なぜ今、「IT特化型」の就労移行支援を選ぶべきなのか
一般的な就労移行支援事業所では、軽作業やデータ入力、汎用的なビジネスマナー訓練が中心となることが多く、目指せる職種も「一般事務」や「軽作業」がメインになりがちです。
一方、IT特化型の就労移行支援は、エンジニアやWebデザイナーなどの「専門職」への就職を前提としています。 発達障害(ASD/ADHD)の特性として、コミュニケーションに課題があっても、特定の作業に対する高い集中力や論理的思考力を持つ方は少なくありません。そうした特性を「障害」としてではなく「武器」として活かせるのが、IT特化型を選ぶ最大のメリットです。
【基本編】IT系就労移行支援の選び方 5つのチェックポイント
まずは、事業所を比較検討する際に必ず押さえておくべき「基本の5項目」です。これらが満たされていない事業所は、選択肢から外して問題ありません。
通いやすい場所にあるか(アクセス)
どれだけ良いカリキュラムでも、通えなければ意味がありません。就労移行支援は原則「週3〜5日」の通所が求められます。 片道1時間以上かかる場所や、乗り換えが複雑でストレスがかかるルートは、通所だけで疲弊し、学習に身が入らなくなるリスクがあります。「無理なく毎日通える距離か」を現実的にシミュレーションしてください。
プログラム内容(カリキュラム)と学習スタイル
IT系就労移行支援を選ぶ上で最も重要なのが、この「何を(What)」、「どうやって(How)」学ぶかという点です。ここがズレていると、通所自体が苦痛になります。
「目指す職種」と「カリキュラム」の一致
「IT」と一口に言っても分野は別物です。自分が目指す職種に必要なスキルが学べるか、詳細を確認してください。
- Webデザイン志望: Photoshop, Illustrator, HTML, CSS, JavaScriptなどが必須。Word/Excel中心の場所はNGです。
- プログラマー志望: Java, PHP, Python, SQLなどの言語習得が必須。デザイン中心の場所では物足りません。
- データ分析・IT事務志望: Excel(VBA), Access, RPA, Python(分析)などが学べるか確認しましょう。
「学習スタイル」と特性の相性
授業の形式が自分の障害特性に合っているかも重要です。
- 講義形式(スクール型): 講師が前で話し、全員で進める。生活リズムを整えたい人、その場で質問したい人に適しています。
- eラーニング形式(自習型): 動画教材などを使い、自分のペースで進める。聴覚過敏で講義が辛い人、自分のペースでどんどん進めたい人に適しています。
IT職への就職実績(数字)は高いか
公式サイトにある「就職率」などの数字を確認します。ただし、数字が高いだけで安心せず、「自分の目指すIT職種への実績が含まれているか」を見ることが重要です。事務職や軽作業での就職が大半を占めている場合は注意が必要です。
スタッフとの相性は良いか
学習をサポートするインストラクターや、就職活動を支援する担当者との相性は、継続のための最重要ファクターです。 「威圧的ではないか」「質問しやすい雰囲気か」「障害特性への理解があるか」など、対人面での安心感を確認してください。
ネットで決めずに「見学・体験」に行こう
Webサイトやパンフレットの情報は、あくまで「広告」です。良いことしか書かれていません。 実際の雰囲気、利用者の表情、設備の充実度などは、現地に行かなければ分かりません。候補を2〜3箇所に絞ったら、必ず見学や体験利用(数日間の通所)を申し込みましょう。
【応用編】パンフレットは信じるな。「地雷」を見抜く裏チェックリスト
基本ポイントがクリアできていても、入所後に「こんなはずじゃなかった」と後悔するケースがあります。見学・体験時にこっそり確認すべき、運営の実態を見抜くためのチェック項目です。
就職率よりも「途中退所率」を確認する
就職率は計算方法次第で高く見せることができますが、ごまかせないのが「途中退所率(辞めてしまった人の割合)」です。 「過去1年間で、就職以外の理由で辞めた人は何人いますか?」と聞いてみてください。この数字が高い事業所は、カリキュラムが放置気味だったり、人間関係などの環境に問題がある「地雷」の可能性があります。
PCスペックと通信環境(Wi-Fi)を目視する
Webデザインやプログラミングを学ぶ上で、PCのスペックは死活問題です。 「動作が重くてAdobeソフトが動かない」「ネットが頻繁に切れる」といった環境では、実務レベルのスキルは身につきません。体験利用の際は、実際にPCを触り、スペックや回線速度を確認してください。
就職先は「A型事業所」ばかりではないか
就職実績の中に、「就労継続支援A型事業所」への移行が多く含まれていないか注意が必要です。 A型への移行も「就職」としてカウントされますが、一般企業への就職(クローズ/オープン問わず)を目指している場合、ゴールが異なってしまいます。「一般企業への就職実績」がどれくらいあるか、具体的に質問しましょう。
実績重視で選ぶおすすめのIT系就労移行支援 3
Neuro Dive(ニューロダイブ)|先端ITスキルで高みを目指す
AI、機械学習、データサイエンスなど、市場価値の高い先端ITスキルに特化した事業所です。 「単純作業は苦手だが、高度な論理的思考力には自信がある」という方に最適です。未経験からでも、専門性の高いハイクラス人材としての就職を目指せます。
atGPジョブトレIT|Web制作スキルと手厚いサポートのバランス
障害者転職支援実績No.1のゼネラルパートナーズが運営する、Web制作(Webデザイン・コーディング)に強い事業所です。 実務に近い制作課題を通してスキルを習得できるほか、大手ならではの豊富な求人網と、精神面・生活面のサポート体制のバランスが優れています。
manaby(マナビー)|在宅ワークと自分のペースを重視
「在宅就労」の実現に強みを持ち、通所だけでなく在宅での訓練にも対応しています(自治体の許可が必要)。 独自開発のeラーニングシステムで、Webデザインからプログラミングまで幅広いスキルを自分のペースで学べます。対人関係に強い不安がある方におすすめです。
ITスキルという「武器」を手に入れろ。理想の働き方は、正しい事業所選びから始まる
一般的な職場で求められる「空気の読み合い」が苦手でも、ITの世界なら「技術(スキル)」と「成果物」で正当に評価されます。 ITスキルを習得することは、あなたの特性を障害ではなく「武器」に変え、得意な土俵で勝負するための生存戦略です。
【失敗しない選び方・3つの鉄則】
- 数字の裏: 「途中退所率」や「就職先の内訳」をごまかさないか。
- 環境: プロ仕様のPCスペックや通信環境があるか。
- 直感: ネットの情報より、見学時の「スタッフとの相性」を信じる。
情報は、行動して初めて意味を持ちます。 迷っている間に定員が埋まってしまう前に、まずは気になった事業所(Neuro Dive、atGPジョブトレIT、manabyなど)の「無料見学・体験」へ足を運んでください。その一歩が、半年後のキャリアを決定づけます。
就労移行支援の選び方に関するよくある質問(FAQ)
Q. 候補は何箇所くらい見学すべきですか?
A. 最低でも2〜3箇所は比較することをおすすめします。「オフィスの静かさ」や「スタッフの質」は、比較対象がないと良し悪しが判断できません。1箇所目で即決せず、必ず複数を比較して「自分に一番合う場所」を選んでください。
Q. ネットの悪い口コミや評判は信じていいですか?
A. 参考程度に留めてください。ネガティブな口コミは「個人的な相性の問題」や「数年前の古い体制」の話であることも多いです。逆に、良い口コミばかりの場所もサクラの可能性があります。ネットの情報に振り回されず、最終的には「見学時に自分の目で見た実態」を信じましょう。
Q. 通い始めてから「合わない」と思ったら変更できますか?
A. 変更(転所)可能です。事業所選びに失敗して、途中で別の事業所へ移ることは珍しいことではありません。合わない環境やレベルの低いカリキュラムで無理に続けるよりも、早めに自分に合う場所へ移る方が時間の無駄になりません。