「周りと同じように仕事ができない」「なぜか自分だけミスが減らない」 もし今、事務職や営業職でそんな風に自分を責め、消耗しているのなら、少しだけ話を聞いてください。
はっきり言いますが、その「生きづらさ」の原因は、あなたの能力不足ではありません。単に**「場所(職種)」が合っていないだけ**です。
発達障害(ASD/ADHD)の特性を持つ脳は、曖昧なコミュニケーションやマルチタスクが求められる一般的な職場ではエラーを起こしやすくなります。しかし、ルールと論理が支配する**「ITエンジニア」の世界において、その特性は「最強の武器」**へと反転することをご存知でしょうか。
この記事では、精神論ではなく「脳の特性」に基づき、未経験からでも**「無理なく、自分のままで評価される働き方」**を手に入れるための具体的な手順を解説します。
独学での挫折を回避し、国の制度である**「就労移行支援」**を賢く使い倒して、最短ルートで「適職」へ到達する方法。その中身を包み隠さずお伝えします。
なぜ今、事務職ではなく「エンジニア」を目指すべきなのか
「好きだから」という理由だけで仕事を選ぶ必要はありません。発達障害の当事者がエンジニアを目指すべき最大の理由は、そこが**「マイナスを埋める努力」ではなく「プラスを伸ばす努力」が評価される世界**だからです。
「弱点」が問われない実力主義の世界
事務職や接客業では、「空気を読む」「臨機応変に対応する」といったスキルが評価の大部分を占めます。これらが苦手な当事者にとって、今の職場は「減点方式」のゲームでしかありません。
- エンジニアの世界は「加点方式」
- 評価されるのは「動くコードを書いたか」「エラーを解決したか」という事実だけ。
- 人間関係の機微よりも**「技術」が共通言語になる世界**は、対人関係にコンプレックスを持つ方にとって非常にフェアな環境です。
感覚過敏を救う「フルリモート・チャット文化」
発達障害を持つ方の多くが抱える「電話の音が辛い」「通勤ラッシュでパニックになる」といった感覚過敏の問題。これらは、一般的なオフィスワークでは「わがまま」と捉えられがちですが、エンジニアなら解決可能です。
- 働き方の自由度が高い
- 完全在宅(フルリモート): 満員電車に乗る必要がなく、体力を温存できる。
- 環境調整: 静かな自室で、耳栓やノイズキャンセリングをして作業できる。
- テキスト文化: 連絡は「Slack」などのチャットが中心。「言った言わない」のトラブルが防げる。
障害者雇用でも「専門職」として扱われる
一般的な障害者雇用枠では、補助的な業務が多く、キャリアアップが見込みにくいという現実があります。
- 「戦力」として必要とされる
- IT業界は慢性的な人手不足であり、スキルさえあれば「障害の有無」に関わらず尊重されます。
- 「障害があるから我慢して働く」のではなく、**「専門スキルがあるから必要とされる」**という経験が、失いかけた自己肯定感を取り戻してくれます。
発達障害(ASD・ADHD)がエンジニアに向いている理由
「自分にプログラミングなんてできるわけがない」と思うかもしれませんが、実はそうとも限りません。あなたの脳の特性(欠点だと思っている部分)が、IT業界では**「高い適性」**として機能します。
ASD(自閉スペクトラム症)の強み
- 違和感に気づく「パターン認識」とデバッグ適性
- 全体をなんとなく把握するのは苦手でも、「細かい規則性を見つける」「わずかな間違いに気づく」能力はずば抜けています。
- 1文字のミスも許さない修正作業(デバッグ)に没頭できる集中力は、開発現場で重宝される才能です。
- 規則性を重視する「論理的思考」
- 「なんとなく」が苦手な代わりに、仕様書通りに正確に作る作業が得意です。
- 感情を抜きにして、ロジック(論理)だけで構成されたシステムを構築する作業は、ASDの思考回路と非常に相性が良いのです。
ADHD(注意欠如・多動症)の強み
- 新しい技術への「知的好奇心」
- 「飽きっぽさ」は、裏を返せば「新しいものへの興味が強い」ということです。
- 技術の進化が速いIT業界では、一つのことを守り続けるよりも、次々と新しいツールに興味を持てるADHDの特性は**「適応力が高い」**と評価されます。
- 失敗を恐れない「行動力」と発想力
- 慎重すぎて手が止まる人よりも、「とりあえずコードを書いて動かしてみる」という試行錯誤の回数を稼げるため、成長が早い傾向にあります。
- トラブル発生時などの緊急事態において、脳が覚醒する**「過集中」**もエンジニアとしての強力な武器になります。
どのスキルを学ぶべき?タイプ別の選び方
エンジニアと一言で言っても、やることは全く違います。流行り廃りではなく、**「自分の性格に合いそうなもの」**を選ぶのが、長く続けるコツです。
開発系(システムエンジニア / バックエンド)
- 習得スキル:
JavaPHPRuby - 特徴:企業の業務システムや、スマホアプリの「裏側」を作る仕事。
- メリット:求人数が一番多い(安定)
- 仕事がなくなりません。最も堅実に就職できるので、「食いっぱぐれない」ことを最優先するならここです。
- 向いている人:【ASD傾向・ルーチン重視】
- 仕様書通りに動くものを作る「正確性」が求められます。ルールが明確な環境を好む人に向いています。
Web制作・デザイン系(フロントエンド / Webデザイナー)
- 習得スキル:
HTMLCSSJavaScriptAdobe(Design) - 特徴:Webサイトの「見た目」や「動き」を作る仕事。
- メリット:すぐに結果が見える(報酬系)
- 自分が書いたコードが、すぐに画面に反映されます。この「即時フィードバック」が楽しいため、飽きっぽい人でも挫折しにくいのが特徴です。
- 向いている人:【ADHD傾向・視覚優位】
- 複雑な計算よりも、直感的な「見た目の変化」に強いタイプ。変化を好み、新しいトレンドを追うのが好きな人に向いています。
データ・先端技術系(データサイエンティスト / AIエンジニア)
- 習得スキル:
PythonSQLR - 特徴:AI開発やデータ分析など、数字から法則を見つける仕事。
- メリット:市場価値が最も高い(高単価)
- 希少価値が高く、フルリモート待遇も当たり前です。ただし、プログラミングに加えて数学的な知識も必要になります。
- 向いている人:【高IQ・論理重視・ASD】
- 感情を抜きにして、純粋な「論理」と「数字」だけで戦いたいタイプ。専門的な訓練が必要です。
インフラ・守り系(インフラエンジニア / 社内SE)
- 習得スキル:
LinuxAWSネットワーク知識 - 特徴:Webサービスが動くための「場所(サーバー)」を作ったり、守ったりする仕事。
- メリット:対人ストレスが少ない(聖域)
- 一度作ってしまえば、あとは監視や保守がメインになります。マニュアルと手順が絶対の世界なので、突発的な対応が苦手な人に向いています。
- 向いている人:【ASD傾向・ルール遵守】
- 決まった手順を1ミリも間違えずに実行することに安心感を覚えるタイプ。「縁の下の力持ち」として働きたい人向けです。
業務効率化・自動化系(RPAエンジニア / DX推進)
- 習得スキル:
VBARPA(Power Automate) - 特徴:「Excelからコピペしてメールを送る」といった退屈な手作業を、プログラムで全自動にする仕事。
- メリット:感謝が早い(即効性)
- 目の前の面倒な作業が一瞬で終わるようになるため、社内ですぐに役立ちます。難しい知識がなくても、「楽をしたい」という気持ちがあれば習得できます。
- 向いている人:【ASD傾向・効率化マニア】
- 「無駄」や「非効率」が大嫌いな人。バラバラな業務をパズルのように整理するのが好きなタイプです。
エンジニアを目指す人の多くが挫折する3つの原因
「向いているなら、まずは本を買って独学してみよう」と思った方は、少し待ってください。 残酷な事実ですが、発達障害の方がプログラミングを独学すると、9割近くが挫折します。それは「技術」の問題ではなく、「特性」による自滅が起きるからです。
- エラーが解決できず、学習が止まる
- プログラミングにエラーは付きものですが、ASD傾向のある方は、1つのエラーに対して過剰にこだわってしまい、パニックを起こしやすい傾向があります。
- 先生がいれば3分で解決することが、独学だと3日かかり、そのストレスで勉強どころではなくなってしまうのです。
- 「勉強した」だけでは就職できない
- 厳しい現実ですが、未経験の採用面接において「独学で勉強しました」という言葉はあまり信用されません。
- 企業が見ているのは、**「チーム開発ができるか」「実務レベルのコードか」**です。独学でテキストを書き写しただけのレベルでは、採用の土俵に上がることすら難しいのが現実です。
- 技術があっても「障害特性」を説明できずに面接で落ちる
- これが最大の壁です。仮に技術があっても、面接で「あなたの障害について教えてください」と聞かれた時、論理的に説明できなければ、企業は「採用リスクが高い」と判断します。
- 自分の特性を客観視し、企業に安心感を与える説明書を作る作業は、一人ではほぼ不可能です。
就労移行支援を利用するべきメリット
独学での失敗を避け、確実にエンジニアになるための方法。それが**「就労移行支援」です。これは単なる福祉施設ではなく、「国が用意したエンジニア養成のための制度」**と言っても過言ではありません。
- 多くの利用者が「無料」で利用できる
- 一般的なプログラミングスクールは50万〜80万円の費用がかかりますが、就労移行支援は国の福祉サービスです。
- 前年度の世帯収入にもよりますが、**利用者の9割以上が「自己負担0円」**で利用しています。お金をかけずに専門スキルを習得できる、使わない手はない制度です。
- 一般には出ない大手企業の求人を紹介してもらえる
- 大手事業所は、ハローワークや転職サイトには載らない**「大手IT企業の障害者求人」**を独自に持っています。
- 独学では応募すらできないような大手企業へ、事業所の推薦付きで応募できるチャンスがあります。
- 就職活動から就職後までサポートを受けられる
- 履歴書添削や模擬面接はもちろん、入社後もスタッフが企業との間に入って調整を行う**「定着支援」**の制度があります。
- 「入社してもまた人間関係で辞めてしまうのではないか」という不安を解消し、長く安定して働き続けるための命綱となります。
- 社会人としての「ビジネススキル」も習得できる
- 現場で必要なのはコードを書く力だけではありません。チャットツール(Slack等)の使い方、タスク管理、報告・連絡・相談のタイミングなど、**エンジニアとして働くための「作法」**もカリキュラムに含まれています。
発達障害におすすめのIT特化型就労移行支援4選
数ある事業所の中から、特に**「ITスキル」**に強く、実績のある4社を厳選しました。 自分の目指す方向性(Web系か、開発か、データ分析か)に合わせて選んでみてください。
atGPジョブトレIT|うつ・発達障害専門。Web制作・エンジニア就職に強い
- 習得スキル:
Web制作HTML/CSSPHP - 特徴:うつ・発達障害への配慮が手厚く、症状別のコース運営が特徴。
- こんな人におすすめ:【Webエンジニア志望】
- 未経験からWebデザイナーやエンジニアになりたい人。迷ったらまずはここを検討すべき「王道」です。
就労移行ITスクール|Webデザイン・動画編集を楽しく学ぶ
- 習得スキル:
Adobeソフト動画編集ライティング - 特徴:お笑い芸人EXITがアンバサダーを務めるなど、明るい雰囲気が特徴。
- こんな人におすすめ:【クリエイティブ志向】
- 難しいコードよりも、デザインや動画に興味がある人。勉強が苦手なADHD傾向の方でも飽きずに続けられます。
Kaien(カイエン)|発達障害×ITのパイオニア。独自求人が豊富
- 習得スキル:
プログラミングデザイン - 特徴:発達障害に特化した先駆者であり、独自の「クリエイティブコース」を持つ。
- こんな人におすすめ:【実績重視】
- 自分の特性を深く理解し、相性の良い企業で長く働きたい人。LITALICOと並ぶ安心感があります。
Neuro Dive(ニューロダイブ)|先端IT・データ分析特化のハイクラス向け
- 習得スキル:
AI(機械学習)データ分析業務効率化(RPA、VBA)Pythonなど - 特徴:高度なデータ分析やAI活用を学ぶ、ビジネスパーソン向けのエリートコース。
- こんな人におすすめ:【キャリア志向】
- 高IQ・論理思考に自信があり、一般枠以上のキャリアを目指す人。
- ※注意: レベルが高いため、自信がない人は「atGP」か「Kaien」の方が挫折しません。
自分に適性があるか知るためにもまずは行動してみよう
悩んでいる間に「席」は埋まる。まずは無料で見学へ
「自分に向いているか」は、ネットの記事をいくら読んでも分かりません。実際にPCを触り体験してみて**「楽しい」と感じるか「苦痛」と感じるか**。それが全ての答えです。
就労移行支援事業所の定員は、法律で原則20名と定められていることが多く、人気の事業所はすぐに満席になってしまいます。IT特化型の就労移行支援は人気が高く、定員が埋まると利用できるまでに数ヶ月待ちになることも珍しくありません。 悩んでいる間にチャンスを逃さないよう、まずは各社の**「無料見学・体験」**に申し込み、オフィスの雰囲気とカリキュラムを自分の目で確かめてみてください。
動かなければ、今の苦しい現状は1ミリも変わりません。 あなたの「脳の特性」を「才能」に変える場所は、すぐそこにあります。
発達障害とエンジニア就職に関するよくある質問
- Q. 30代・40代の未経験からでもエンジニアになれますか?
- A. 可能です。ただし、戦略が必要です。一般枠での未経験転職は年齢的に厳しいですが、障害者枠であれば「これまでの社会人経験」と「実務スキル(ポートフォリオ)」があれば評価されます。
- Q. 障害者手帳を持っていなくても利用できますか?
- A. はい、利用できるケースが多いです。医師の診断書や「自立支援医療受給者証」があり、自治体が支援の必要性を認めれば利用可能です。いわゆる「グレーゾーン」の方でも利用実績は多数あります。
- Q. 文系で数学が苦手でもプログラミングはできますか?
- A. はい、全く問題ありません。AI開発などの一部の職種を除き、ほとんどのプログラミングに高度な数学知識は不要です。必要なのは「論理的思考(ロジック)」と「国語力」です。文系出身のエンジニアは山ほどいます。