「特例子会社は給料が安いからやめとけ」 「スキルがつかないから後悔する」
ネット上にはこうしたネガティブな言葉が並びますが、これを鵜呑みにして選択肢から外すのは危険です。 なぜなら、特例子会社は「安定して長く働きたい人」にとっては、これ以上ないほど守られた素晴らしい環境だからです。
「やめとけ」と言われる原因は、会社が悪いのではなく、「バリバリ働いて稼ぎたい人」が、安定重視の特例子会社に入ってしまう「ミスマッチ」にあります。
本記事では、特例子会社のメリット・デメリットを公平に整理し、あなたが選ぶべきは「特例子会社」なのか、それとも「スキルを身につけての一般枠」なのか、判断するための基準を解説します。
- 特例子会社が「やめとけ」と言われる構造的な理由
- それでも選ばれる理由と、向いている人の条件
- 一般枠や専門職を目指す場合に必要な、実績の作り方
結論|体調に波があるなら合う。条件を上げたいなら合わない
先に結論です。体調に波があって配慮が要るなら、特例子会社は合います。専任の指導員を置くことも、同僚の20%以上が当事者であることも認定の要件なので、配慮を頼むのが例外にならない場所だからです。
逆に、いまより条件を上げたいなら合いません。特例子会社は親会社の間接業務を受ける会社なので、売上を作る部署ではなく、給料と業務範囲に天井があります。そこを変えたいなら、専門的・技術的職業(障害者雇用の5.8%)を狙うことになります。
特例子会社とは、親会社の雇用率に算入できる子会社のこと
特例子会社は、障害者雇用促進法にもとづく制度です。親会社が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を作り、一定の要件を満たすと、その子会社で働く人を親会社が雇用しているものとみなして雇用率を計算できます。令和7年6月1日現在、全国に631社あります(企業グループでの算定は394グループ)。
認定の要件は次のとおりです。ここが、働く側から見た特徴とそのまま重なります。
| 認定の要件 | 働く側から見ると |
|---|---|
| 雇用する障害者が5人以上で、全従業員の20%以上 | 同僚に当事者が多い。配慮を頼むことが例外にならない |
| 雇用する障害者のうち、重度身体障害・知的障害・精神障害のある方が30%以上 | 重い障害のある方も前提に業務が組まれている |
| 専任の指導員の配置、障害者のための施設の改善 | 相談する相手が決まっている。設備面の配慮がある |
| 親会社が議決権の過半数を持ち、役員を派遣するなど関係が緊密 | 業務は親会社の間接業務が中心になりやすい |
最後の1行が、「給料が上がりにくい」「業務が限定的」の理由です。特例子会社は親会社の間接業務を引き受ける会社なので、直接売上を作る部署ではありません。そこに予算と業務範囲の天井があります。
特例子会社はこれから増える方向です
民間企業の法定雇用率は2024年4月に2.5%へ、2026年7月には2.7%へ引き上げられました。対象になる企業の範囲も従業員37.5人以上に広がっています。雇用義務が重くなるほど、特例子会社を作って人数を確保する動きは強まります。選択肢は増えますが、間接業務が中心という構造は変わりません。
運営側の視点求人票では業務内容が「事務補助」とだけ書かれていることがあります。面接で「親会社のどの部署の、どの業務を受けていますか」と聞いてください。受けている業務の種類がそのまま、その会社で任される仕事の幅になります。
特例子会社が「やめとけ」と言われる構造的な理由
まずは、なぜネガティブな口コミが生まれるのか。それは特例子会社の「役割」に由来する構造的な課題があるからです。
1. 給料が上がりにくい
特例子会社の多くは、親会社の事務代行や軽作業を請け負う部門です。 直接利益を生み出す部署ではないため、予算が限られており、大幅な昇給やボーナスが見込みにくいのが現実です。「自立して家族を養いたい」と考える人には、金銭面で厳しさがあります。
2. 業務範囲が限定的
業務マニュアルが完備されている反面、仕事内容は「定型業務(データ入力、清掃、軽作業)」に固定されがちです。 幅広いスキルを身につけたい人や、変化のある仕事を好む人にとっては、数年で「物足りなさ」を感じてしまう原因になります。
それでも特例子会社が「選ばれる」大きな理由
一方で、特例子会社にしかない条件もあります。しかもその多くは、会社の方針ではなく認定の要件そのものです。
1. 専任の指導員がいて、定着率が高い
特例子会社として認定されるには、専任の指導員を置くことと、障害者のための施設の改善が要件になっています。つまり「たまたま面倒見のよい会社」ではなく、制度としてそこを整えることが前提の会社です。一般枠で人間関係が続かなかった方や、毎日通えるかが不安な方にとっては、この条件が効きます。
2. 障害への深い理解
周りに当事者が多いのも、認定の要件から来ています。特例子会社は雇用する障害者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上、かつそのうち重度身体障害・知的障害・精神障害のある方が30%以上、と決まっています。配慮を頼むことが例外ではない場所になります。
発達障害のある方が特例子会社を見るとき、確かめるのは業務の切り方
特例子会社は身体障害や知的障害のある方を想定して作られた会社が多く、発達障害(ASD・ADHD)のある方に合うかどうかは会社ごとに差があります。見学のときに確かめるのは次の3つです。
- 手順書があるか(ASDの方は、範囲が決まっていない仕事で止まりやすい)
- 同じ作業が続くか、変化があるか(ADHDの方は単調な作業が続くと保ちにくいことがあります)
- 指示は口頭か文字か(口頭で複数重なると抜けやすい方は先に伝える)
これらは合理的配慮として頼めるもので、事業主には配慮を提供する義務があります。特例子会社は専任の指導員がいるぶん、この相談を持ちかける相手がはっきりしています。
特例子会社を選ぶ時点で、開示するかどうかは決まっている
特例子会社は障害者雇用枠での採用なので、オープン就労(開示して働く)を選んだことになります。クローズ就労(伝えずに一般枠で働く)と迷っているなら、そこを先に決めることになります。どちらが向くかは、配慮を頼まずに働けるかどうかで分かれます。
開示すると決めたあと、面接でどこまで話すかは別に決めることになります。


制度そのものをまだ押さえていない方は、こちらから読んでください。


応募には障害者手帳が要る
特例子会社は障害者雇用枠での採用なので、応募には障害者手帳が必要です。精神障害者保健福祉手帳は初診日から6か月を過ぎた診断書で申請するので、検討しているなら早めに主治医へ相談してください。
あなたはどっち?「安定」か「キャリア」かの分岐点
重要なのは、今のあなたが何を最優先にするかです。
特例子会社が向いている人
- 「細く長く」働きたい
-
キャリアアップよりも、心身の健康と雇用の安定を最優先したい。
- 配慮が必要
-
服薬の影響で体調に波があり、急な欠勤や早退を許容してくれる環境が必要。
一般企業の「専門職枠」を目指すべき人
- 「収入」を上げたい
-
障害者雇用の平均より上の条件を狙いたい。発達障害のある方の平均賃金は月13万円、週30時間以上でも15万5千円というのが全国の実測です。
- スキルを評価されたい
-
障害の有無に関わらず、仕事の成果で評価される環境(IT・クリエイティブ職など)で勝負したい。
専門職を狙うなら、応募前に作ったものを見せられる状態にする
「特例子会社の業務では物足りない」「もっと稼ぎたい」と思うなら、一般企業の障害者雇用枠を見ることになります。ただし障害者雇用の職業別を見ると、サービスの職業27.1%、事務的職業22.7%に対して専門的・技術的職業は5.8%です。スキルを持たないまま応募すると、多いほうの側の条件になります。
独学が不安なら就労移行支援を活用する
自分一人でスキルを習得するのが難しい場合、就労移行支援で訓練を受けるのが近道です。 ここでは、より間口が広く、実務的なスキルが学べる事業所を紹介します。
発達障害に特化して実務を進める|Kaien(カイエン)


発達障害のある方に特化した就労移行支援です。模擬職場の形で実務を進める訓練が中心で、職場のルールを言葉にして説明することに定評があります。Web制作のほか、生成AIやVBAを使った業務も扱っています。「自分に何が向いているか分からない」という段階から相談できます。
Web制作を作り終える形で学ぶ|atGPジョブトレIT・Web


Web制作を実践的に学びます。デジタルハリウッドと提携した教材があり、拠点は東京と大阪です。完成したページという分かりやすい終わりに向かって進めるので、見通しが立ちます。Webデザインと動画編集の実態は、別の記事にまとめています。
ここまで挙げた事業所は、どれも公式情報で確認できる範囲の違いです。
1社だけ見て決めず、2〜3社を見学・体験して比べてください。パンフレットや口コミでは分からず、実際に足を運んで初めて分かるのは次の3点です。
- 支援員との相性(毎日顔を合わせる相手が、自分に合う話し方をするか)
- 学習内容(カリキュラム名ではなく、実際に何を作り、どう就職につなげるのか)
- 通い続けられるか(通所ルートの負担、教室の音や人数、自分の体調との相性)
見学や相談は無料で、かかる費用は交通費くらいです(体験利用の扱いは事業所や自治体によって異なるため、申し込み時に確認してください)。
「見学に行ったら、断りづらくなるのでは」と身構えてしまうかもしれません。でも実際のところ、見学に来た方のうち通所まで進むのは半分以下です(事業所によって差はあります)。
「学習内容が思っていたものと違った」「難しくてついていけなそうだった」「毎日通うのはしんどそうだった」——見送る理由は人それぞれで、断られるのは事業所にとって日常です。気を遣う必要はありません。合わないと感じたら、そのまま帰って別の事業所を見に行けば大丈夫です。
まとめ|体調が読めないなら特例子会社、条件を上げたいなら専門職の5.8%側
特例子会社は「やめとけ」と言われるような悪い場所ではありません。 安定を求める人にとっては天国であり、成長を求める人にとっては少し窮屈な場所、というだけです。
「給料」を取るか、「配慮」を取るか。 自分の優先順位を整理し、もし「スキルでの就職」を目指すなら、就労移行支援の見学に行ってみるのも一つの選択肢です。


あわせて、IT特化型就労移行支援の全国ランキングもご覧ください。
「安定」でも「キャリア」でも、まず選択肢を並べて比べてください。
特例子会社は「やめとけ」の評判に関するFAQ
- 「やめとけ」と言われる最大の原因は何ですか?
-
「給料の低さ」と「業務の単調さ」です。生活費を稼ぎたい人や、スキルアップしたい人にとっては、どれだけ長く働いても状況が変わらないため、不満(やめとけという声)に繋がっています。逆に、安定を求める人からは評価されています。
- 特例子会社の人間関係は「特殊」だと聞きますが?
-
特殊と感じる人はいます。管理職以外が全員障害者という環境や、過剰な配慮がある雰囲気を「学校のようで馴染めない」と感じる人もいれば、「仲間がいて安心する」と感じる人もいます。合う合わないがはっきり分かれる環境です。
- 特例子会社に入ると、もう一般企業には戻れませんか?
-
制度上、戻れないという決まりはありません。ただし特例子会社の業務は親会社の間接業務が中心になりやすく、職務経歴として何ができるかを示しにくい面はあります。転職を考えるなら、在職中に何を作ったか・何を任されたかを書ける形で残しておくことになります。
参考にした公的資料
- 厚生労働省「特例子会社制度の概要」(認定要件、令和7年6月1日現在631社・394グループ) https://www.mhlw.go.jp/content/001027591.pdf (2026年9月8日確認)
- 厚生労働省「令和5年度 障害者雇用実態調査」(発達障害のある方の平均賃金13万円、週30時間以上で15万5千円、職業別で専門的・技術的職業は5.8%) https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001233721.pdf (2026年9月8日確認)
- 厚生労働省「障害者の法定雇用率引き上げ」(2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%。対象は従業員37.5人以上) https://www.mhlw.go.jp/content/001064502.pdf (2026年9月8日確認)
※ この記事は、就労移行支援の運営に5年以上携わった経験と、各事業所・公的機関が公表している情報をもとに作成しています。評価基準や情報の扱い方は運営者情報・編集方針で公開しています。
※ 本記事は特性の理解と働き方の工夫を扱うものであり、医学的な診断・治療の助言を行うものではありません。心身の不調が続く場合は医療機関にご相談ください。
※ 就労移行支援の利用条件・自己負担額・在宅訓練の可否は、お住まいの自治体の判断によって異なります。最新の条件は自治体の障害福祉窓口または各事業所にご確認ください。









