「電話のベルが鳴るだけで心臓が跳ねる」 「聞き取りながらメモを取るなんて、聖徳太子じゃないんだから無理だ」
職場で電話対応を求められるたび、恐怖で身体が固まってしまってはいませんか? 周りは「慣れだよ」と言いますが、もし何年経っても慣れないなら、それはあなたの努力不足ではありません。
「脳の特性」と「電話」の相性が、絶望的に悪いだけである可能性が高いです。
本記事では、なぜ発達障害があると電話がこれほど苦痛なのか、その医学的な背景と、今の職場でできる対策、そして「電話が苦手な脳特性が、実は別の分野で活きる可能性」について解説します。
- 電話が怖いと感じるのが「脳のせい」である理由
- 今の職場で使える、電話の負担を減らす防衛策
- 電話がほとんど発生しないIT・Web職という選択肢
- 電話対応を避けた働き方に移るための現実的な手順
結論|電話対応ができないのは慣れの問題ではない。電話を減らす方法から考える
電話対応が苦手なのは、場数が足りないからではありません。聞く・理解する・書く・返すを同時に処理しているところでつまずいています。まず、自分がどこで止まっているかを見てください。
| つまずく作業 | 起きていること | 先に試すこと |
|---|---|---|
| 相手の声が聞き取れない | 聴力ではなく、脳が音を言葉に変換しきれていない(APDの可能性) | ヘッドセットに替える。静かな席へ移る。復唱して確認する |
| 聞きながらメモが書けない | 聞く・理解する・書く・返すを同時にやっていて、容量を超える | 録音の許可をもらう。項目を印刷したメモ用紙を置く |
| 内容を覚えられない | 耳から入った情報が、書き留める前に消える | 「メモを取りますのでお待ちください」と言って一度止める |
| 出るまでに固まる | 最初の一言が決まっていないぶん、考える量が増える | 名乗りの文を紙に書いて電話機の横に貼る |
道具と手順で減らせるところまで減らして、それでもつらいなら、電話対応そのものを外してもらう相談ができます。医師の診断があれば、電話の免除や本数を減らすことは合理的配慮として頼める内容です。障害者雇用枠なら通りやすく、一般雇用枠でも、開示するか(オープン就労)伏せるか(クローズ就労)を決めたうえで業務分担の相談として伝えられます。障害者手帳がなくても、診断書があれば産業医や上司に相談を始められます。
なぜ発達障害は電話対応が苦手なのか|脳で起きていること
「ただ話すだけ」に見える電話対応ですが、脳内では高度な処理が行われています。特性を持つ脳にとっては、これが「処理落ち」の原因になります。
「聴覚情報処理障害(APD)」の可能性
聴力検査は正常なのに、「雑音の中だと声が聞き取れない」「電話を通すと何を言っているか分からない」という症状です。ASDやADHDの方に併発しやすく、音は聞こえているのに、脳が「言葉」として認識できない状態に陥ります。
ADHDの「強制マルチタスク」
電話対応は、「聞く」「内容を理解する」「メモを書く」「相槌を打つ」を同時に行うマルチタスクです。ワーキングメモリが弱いタイプにとっては、その場で容量を超えます。
電話の内容を覚えられないのも、同じ理由です。耳から入った情報は、書き留める前に消えます。「もう一度言ってもらえますか」を繰り返して申し訳なくなる方が多いのですが、記憶力の問題ではなく、受け取りながら保存できないだけです。だから「覚える」ではなく「その場で止めて書く」に変えると解決します。

ASDの「見えない相手への恐怖」
ASDの方は、相手の表情から情報を得るのが得意な反面、音声だけのやり取りを苦手とします。「間」が読めず、相手が怒っているのか急いでいるのかも分かりません。判断の材料が半分しかない状態で受け答えを求められるので、緊張が強く出ます。
【レベル1】今の職場(事務職)でできる防衛策
すぐに転職できない場合は、まず道具と環境で負担を減らせないか試してください。
運営側の視点先に用意しておきたいのは、「メモを取りますのでお待ちください」の一言です。電話は途中で止めてよいものですが、それを知らないまま聞き逃しを怖がっている方がいます。一度言えるようになると、聞き取れなかったときの逃げ道ができるので、出ること自体の負担が下がります。
ツールで「聞く・書く」を分離する
- ボイスレコーダー
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「聞き逃しても後で確認できる」という安心感がパニックを防ぎます。
- ヘッドセット
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受話器を肩に挟む(身体的ストレス)のをやめ、両手を自由にします。
- メモテンプレート
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「名前・用件・折り返し」などの項目を印刷した紙を手元に置き、空欄を埋めるだけの状態にします。
聞き取れないときのために「型」を決めておく
道具をそろえても、出た瞬間に何を言うか決まっていないと固まります。その場で考える量を減らすほど、電話は楽になります。次の4つを紙に書いて、電話機の横に置いておいてください。
「はい、◯◯株式会社、△△でございます」まで決め打ちにします。出た瞬間に考える余地をなくすほど、頭が次の聞き取りに使えるようになります。
「恐れ入ります、お名前をもう一度お願いできますか」は失礼になりません。最初に確定させておくと、そのあとの話が格段に聞き取りやすくなります。
全部聞き取れなくてかまいません。「◯◯の件で、明日まで、ということですね」と分かった部分だけ返せば、足りないところは相手が補ってくれます。復唱は確認であると同時に、聞き直しの合図にもなります。
「確認して折り返します」を最初から用意しておきます。即答が必要な電話は思っているより少なく、折り返しはメールで済む場合もあります。
電話が苦手な人の多くは、聞き取りと同時に「その場で正しく答えなければいけない」という圧に消耗しています。即答をやめて折り返しに切り替えるだけで、負荷はかなり下がります。まず手放すのは、聞き取る力ではなく即答のほうです。
「電話免除」という合理的配慮
医師の診断書がある場合、「電話対応の免除」や「本数を減らす」といった配慮を会社に求める権利(合理的配慮)があります。 「努力しても改善しない」「動悸がする」といった症状があるなら、上司や人事に相談する価値はあります。
【レベル2】「電話がない仕事」=IT・Web職という選択肢


配慮を求めても理解が得られない、あるいは電話対応が必須の職種であれば、根本的に「電話を使わない文化」のある職種へ移動するのが正解です。 発達障害の方にとって、有力な選択肢の一つとなるのが「IT・Web関連職」です。
なぜIT業界は「電話」が少ないのか
IT業界では「言った言わない」のトラブルを防ぐため、連絡手段の多くがチャット(Slack/Teams)です。 電話は「相手の作業時間を強制的に奪う非効率なツール」とみなされる傾向があり、緊急時以外はテキストでの連絡が好まれます。
「電話が苦手」な脳特性が、IT分野では強みになる可能性
「電話ができない=仕事ができない」ではありません。 電話対応を困難にしているあなたの脳の特性は、IT・Web領域で求められる資質と共通している可能性があります。
- シングルタスクへの没入(過集中)
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電話のような「割り込み」を嫌う脳は、一つの作業に没頭するデザイン制作やデータ入力、プログラミングなどにおいて、高い集中力を発揮しやすい傾向があります。
- 視覚情報の処理能力(視覚優位)
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耳からの情報処理(電話)が苦手な分、目で見る情報(デザイン、文字、コード、データ)の処理能力が高い方が多く、Web関連の仕事と相性が良いケースがあります。
- 曖昧さを嫌う思考(こだわり)
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「空気を読む」電話対応は苦手でも、コンピュータのように「ルール通りに動く」システムや、正確性が求められるデータ管理には適性を示すことがあります。
「ノイズレス」なIT職種例
- Webデザイナー/コーダー
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制作物は画面で見せるため、電話説明が不要。視覚的な表現力が活かせます。
- IT事務/データ入力
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電話対応を含まない、純粋な入力業務やチェック業務。正確さがそのまま評価されます。
- プログラマー/エンジニア
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仕様書とコードが共通言語です。曖昧な会話の「間」を読む必要がなく、論理的な構築作業に静かに没頭できます。


あわせて、発達障害とWebデザイナーの適性もご覧ください。
就労移行支援を使うか迷っているなら、次にやることは1つだけです。
1社だけ見て決めず、2〜3社を見学・体験して比べてください。パンフレットや口コミでは分からず、実際に足を運んで初めて分かるのは次の3点です。
- 支援員との相性(毎日顔を合わせる相手が、自分に合う話し方をするか)
- 学習内容(カリキュラム名ではなく、実際に何を作り、どう就職につなげるのか)
- 通い続けられるか(通所ルートの負担、教室の音や人数、自分の体調との相性)
見学や相談は無料で、かかる費用は交通費くらいです(体験利用の扱いは事業所や自治体によって異なるため、申し込み時に確認してください)。
「見学に行ったら、断りづらくなるのでは」と身構えてしまうかもしれません。でも実際のところ、見学に来た方のうち通所まで進むのは半分以下です(事業所によって差はあります)。
「学習内容が思っていたものと違った」「難しくてついていけなそうだった」「毎日通うのはしんどそうだった」——見送る理由は人それぞれで、断られるのは事業所にとって日常です。気を遣う必要はありません。合わないと感じたら、そのまま帰って別の事業所を見に行けば大丈夫です。
電話対応のないIT・Web職を、未経験から目指すなら
まとめ|電話対応ができないことと、仕事ができないことは別
電話対応ができないことで、自分を責める必要はありません。耳から入る情報の処理が苦手なだけで、目で見て進める仕事なら問題なく回せる方は多くいます。
順番はこうです。①道具と手順で減らす → ②合理的配慮として電話を外してもらう → ③それでも無理なら、電話の少ない仕事へ移る。①と②を試さずに転職すると、次の職場でも同じところで止まります。体調を崩す前に②まで進めてください。障害者手帳がなくても、診断書があれば相談は始められます。
なお、生成AIの普及で、問い合わせ対応はチャットやメールに移りつつあります。文章のやり取りが増えるほど、耳での処理が苦手な人の不利は小さくなります。求人を見るときは、連絡手段が電話中心かチャット中心かも確認してください。
あなたの脳は、音声の即時処理には向いていませんが、テキストでの深い思考や、視覚的な作業には高い適性があるはずです。
苦手な電話で消耗し続ける人生から、得意なテキストで評価される人生へ。 「自分にはITなんて無理」と決めつけず、まずは「電話に出なくていい働き方がある」という事実を知っておいてください。
電話のない環境で、まず学ぶところから始めたい方へ
いまの職場で配慮を得られないときは、障害者雇用の求人を扱う転職エージェントに相談できます
障害者手帳をお持ちの方(取得予定の方を含む)が対象の求人を紹介しているサービスです。在職中でも無料で相談できます。
発達障害と電話対応に関するよくある質問(FAQ)
- 電話が怖いのは病気ですか?
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「電話恐怖症」という社交不安障害の一種や、記事で紹介した「APD(聴覚情報処理障害)」の可能性があります。あまりに苦痛が強い場合は、耳鼻科や心療内科で検査を受けることで、原因がはっきりし、対策が立てやすくなります。
- 会社に「電話に出たくない」と言ったらクビになりますか?
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正当な理由(障害特性や病気)があれば、それを理由に即解雇することは法律上できません。ただし、電話対応が「主要な業務」である職種(コールセンターや受付など)の場合は、配置転換を提案される可能性があります。
- 完全な「電話なし」の求人はありますか?
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あります。特にITエンジニア、Webデザイナー、データ入力、清掃、倉庫作業などは電話対応がほとんど発生しません。求人票に「電話対応なし」と明記されているものを選ぶか、ITスキルを身につけて「技術職」として働くのが確実です。
参考にした公的資料
- 厚生労働省「発達障害者支援施策」(発達障害の定義と支援の仕組み) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hattatsu/index.html (2026年8月21日確認)
- 厚生労働省「障害者雇用対策」(法定雇用率と事業主の義務) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index.html (2026年8月21日確認)
※ この記事は、就労移行支援の運営に5年以上携わった経験と、各事業所・公的機関が公表している情報をもとに作成しています。評価基準や情報の扱い方は運営者情報・編集方針で公開しています。
※ 本記事は特性の理解と働き方の工夫を扱うものであり、医学的な診断・治療の助言を行うものではありません。心身の不調が続く場合は医療機関にご相談ください。









