「障害を隠して(クローズ)、一般枠で給料を稼ぐべきか」 「障害を開示して(オープン)、障害者枠で配慮をもらうべきか」
就職活動を始める際、多くの方が必ずぶつかる究極の選択です。 一般的には「クローズは給料が高いが、リスクが高い」「オープンは楽だが、給料が安い」と言われており、どちらを選んでも何かを犠牲にしなければならないと感じてはいませんか?
しかし、「IT職」を目指す場合に限り、その常識は当てはまりません。 ITスキルさえあれば、障害者枠であっても一般枠と同等の年収を得ることは十分に可能です。
本記事では、2つの働き方の決定的な違いと、IT職において「安定(配慮)」と「お金(年収)」を両立させるための戦略を解説します。
オープン就労(障害者枠)かクローズ就労(一般枠)か。2つの働き方の違い
まずは、一般的な職種における「オープン就労」と「クローズ就労」のメリット・デメリットを整理しましょう。ここが判断のベースになります。
クローズ就労(一般枠)の特徴
障害のことを企業に伝えずに就職する方法です。
- メリット: 求人数が圧倒的に多い。給与水準が高い(健常者と同じ)。
- デメリット: 配慮は一切ありません。「体調が悪くて休みたい」「電話が苦手」といった事情も考慮されず、成果を出し続ける必要があります。
- リスク: 無理をして適応しようとした結果、体調を崩して早期離職するリスクが高いです。
オープン就労(障害者枠)の特徴
障害者手帳を取得し、障害があることを開示して「障害者雇用枠」で就職する方法です。
- メリット: 通院のための休暇や、業務内容の調整といった「合理的配慮」が受けられる。定着率が高く、長く安定して働ける。
- デメリット: 給与が安い傾向にある。 多くの求人が「事務補助」や「軽作業」であり、昇給やキャリアアップの天井が低いことが課題です。
オープン就労(障害者枠)かクローズ就労(一般枠)か。あなたが選ぶべき道の判定基準
「自分はどちらを選ぶべきか」は、体調の安定度と価値観によって決まります。以下の基準を参考に、自分と照らし合わせてみてください。
クローズ就労(一般枠)に向いている人
- 投薬などで症状がコントロールできており、安定して週5日勤務ができる。
- 過去にクローズで働いていて、大きなトラブル(長期休職など)がなかった。
- とにかく選択肢(求人数)を最大化したい。
オープン就労(障害者枠)に向いている人
- 過去にクローズ就労で、人間関係や業務負荷が原因で退職した経験がある。
- 定期的な通院が必要で、平日休みなどの配慮が欲しい。
- 精神的な波があり、明確な「配慮(セーフティネット)」がないと不安だ。
- 何よりも「長く安定して働くこと」を優先したい。
「IT職」ならオープン就労のデメリットが消える可能性がある
ここまで読んで、「安定(オープン)を取りたいけど、給料が安いのは嫌だ」と思った方もいるでしょう。 実は、「ITスキル」を身につければ、この「安定か年収か」のトレードオフを解消できる可能性があります。
なぜIT職は障害者枠でも「年収」が下がりにくいのか
理由はシンプルで、IT業界が「スキル評価主義」だからです。 「事務補助」は誰にでもできる仕事として買い叩かれますが、ITスキルは障害の有無に関わらず市場価値が高いのです。
- プログラミング: システムを作れる
- Webデザイン: サイトを作れる
- データ分析: 数字を扱える
こうしたスキルがあれば、障害者枠であっても一般枠と遜色ない待遇で採用されるケースが増えています。 IT職は、エンジニアだけでなく、Webデザイナーやテスターなど幅広いため、文系・未経験からでも目指しやすいのが特徴です。
どちらのルートも選べるのが「就労移行支援」
「就労移行支援に通う=障害者枠(オープン)しか選べなくなる」と勘違いしていませんか? それは大きな誤解です。
実力をつけてから「クローズ」で戦うのもあり
就労移行支援はあくまで「訓練の場所」です。 ここでITスキルを身につけ、自分のストレス対処法を確立した結果、「これなら配慮なしでもやっていける」と判断して、一般枠(クローズ)で就職していく卒業生も大勢います。
特にIT特化型の事業所では、以下のように柔軟な出口戦略が立てられます。
- Neuro Dive: 高度なスキルを武器に、大手企業の「専門職障害者枠(高待遇)」を狙う。
- atGPジョブトレIT: Web制作スキルを身につけ、最初は「オープン就労」で経験を積み、将来的にフリーランスや一般枠へステップアップする。
「どっちにするか」を今すぐ決める必要はありません。 まずは訓練を受けながら、スタッフと相談して「今の自分に耐えられる働き方」を見極めることが、失敗しないキャリアへの第一歩です。
「年収」か「安定」か。その二択で諦める必要はない
「障害を隠して稼ぐか」 「障害を明かして安定を取るか」
これまで、多くの当事者がこの苦しい二択を迫られてきました。 しかし、本記事でお伝えした通り、「専門性(スキル)」さえあれば、障害者枠であっても一般枠と同等の評価を得ることは可能です。
無理にクローズにして心を削る必要も、オープンにして生活水準を下げる必要もありません。 大切なのは、今のあなたの状態にとって「どちらが長く、健やかに働けるか」です。
一人で抱え込まず、まずは就労移行支援の無料相談で、「自分ならどちらの働き方が合っているか」を客観的に診断してもらうことから始めてみてください。 「隠す」か「明かす」かで悩むのは、あなたの適性を知ってからでも遅くはありません。
オープン就労とクローズ就労に関するFAQ
Q. クローズ就労で入社して、後からカミングアウトできますか?
A. 可能です。ただし、企業側に枠の空きや受け入れ体制がない場合もあるため、最初からオープンにする場合に比べてハードルは高くなります。
Q. 障害者枠だと、単純作業しかさせてもらえませんか?
A. 一般的な事務職ではその傾向がありますが、IT職の障害者枠であれば、開発やテスト、デザインなどの専門業務に就くことが一般的です。重要なのは「職種」選びです。
Q. クローズ就労の場合、源泉徴収票などでバレませんか?
A. 前職が障害者枠だった場合や、障害者控除を受けていた場合は、年末調整の書類でバレる可能性があります。絶対に隠したい場合は、自分で確定申告をするなどの対策が必要です。