「また半年で辞めてしまった」 「履歴書の職歴欄がもう書ききれない」
新しい職場に行くたびに「今度こそ頑張ろう」と誓うのに、気づけば身体が動かなくなり、逃げるように退職してしまう。 そんな自分を「根性がない」「社会不適合者だ」と責めて泣いていませんか?
はっきり言いますが、それはあなたの性格や努力不足のせいではありません。 仕事が続かないことには、脳の特性に基づいた明確な理由と、あなたを拒絶する環境のミスマッチがあります。
本記事では、なぜ発達障害があるとひとつの場所に留まるのが難しいのか、その原因と「自分を責めずに生きていくための環境選び」を解説します。
なぜ発達障害は「仕事が続かない」のか?脳科学的な3つの原因
「飽きっぽい」「堪え性がない」という言葉で片付けられがちですが、脳の中ではもっと深刻なエラーが起きています。
ADHDの「報酬系の機能不全」
ADHDの脳は、ドーパミン(やる気ホルモン)の受容体が働きにくいと言われています。
- 現象: 新しい仕事は刺激的でドーパミンが出ますが、ルーチンワーク(慣れ)になった瞬間に脳が「報酬なし」と判定し、強烈な苦痛(退屈)を感じます。
- 結果: 「飽きた」のではなく、脳が「活動停止命令」を出してしまい、続けることが生理的に不可能になります。
ASDの「社会的疲労(マスキング)」
ASDの方は、職場で「普通の人」を演じるため、無意識に膨大なエネルギーを使っています(カモフラージュ/マスキング)。
- 現象: 雑談に合わせる、空気を読むといった「演技」を1日8時間続けます。
- 結果: 帰宅すると泥のように眠る日々が続き、ある日突然電池が切れるように「出社拒否」の状態になります(適応障害)。
感覚過敏による「物理的ダメージ」
オフィスの電話音、話し声、照明の明るさ。定型発達の人には「背景」ですが、感覚過敏のある人には「攻撃」です。
- 結果: 毎日ダメージを受け続けるため、体力と気力がじわじわと削られ、数ヶ月で限界を迎えます。
あなたが悪いのではなく「環境」が悪い
仕事が続かない人の多くは、「サボテンが沼地で育とうとしている」ような状態です。 サボテン(あなた)が悪いのではなく、沼地(環境)が合っていないだけです。
発達障害を「殺す」環境の特徴
以下のような職場では、どれだけ努力しても続きません。逃げるのが正解です。
- マルチタスクが常態化: 電話を取りながら作業する環境。
- 「察する」文化: マニュアルがなく「背中を見て覚えろ」という指導。
- 物理的環境: フリーアドレス(席が決まっていない)や、パーテーションのない広いオフィス。
転職回数が多いのは「勲章」ではないが、「罪」でもない
「履歴書が汚れてしまった」と嘆く必要はありませんが、開き直って「勲章だ」と誇るのも現実逃避です。 転職を繰り返してしまった事実は、「データ収集の期間だった」と捉え直しましょう。
消去法で「正解」に近づいている
仕事が続かなかった経験は、「自分には何が無理なのか」を明確にするための実験データです。
- 1社目(営業):マルチタスクとノルマが無理だと分かった。
- 2社目(事務):電話対応とお局様の機嫌取りが無理だと分かった。
- 3社目(ライン作業):スピードについてもいけないことが分かった。
これらは失敗ではなく、「選択肢を消去した」という進捗です。 「自分が悪い」と反省するのではなく、「じゃあ次は、電話がなく、自分のペースでできるデータ入力(またはIT)にしよう」と、条件を絞り込むための材料にしてください。
次こそ「続く環境」を見つけるための詳細チェックリスト
「給料」や「知名度」で選ぶのはもうやめましょう。発達障害の方が長く働くために確認すべきなのは、「脳に負荷がかからない環境か」という一点です。
面接や見学時に以下の5点を確認し、一つでも「NG」があれば、そこはあなたにとっての地雷原です。
指示の「具体性」とマニュアルの有無
ASDの方は「適当に」「いい感じで」という曖昧な指示でフリーズし、ADHDの方は口頭指示を忘れます。
- チェック項目:
- 業務マニュアルは整備されているか?(「背中を見て覚えろ」はNG)
- 指示は「チャット」や「メール」など、文字で残る文化か?
- 「15時までに30個」など、数字で指示される環境か?
「突発的な割り込み」の頻度
過集中(シングルタスク)が得意な脳にとって、作業中の割り込みは思考を強制終了させる「攻撃」です。
- チェック項目:
- 電話対応は必須か?(電話当番が免除されているか)
- 頻繁に話しかけられる席配置か?(壁に向かう席や、集中ブースはあるか)
- 自分のペースで作業配分を決められるか?
評価基準が「定量」か「定性」か
人間関係などの曖昧な要素ではなく、数字や完了ベースで評価される仕事を選びましょう。
- チェック項目:
- NG(定性): 「頑張っている」「協調性がある」「空気が読める」で評価される(事務・営業・接客)。
- OK(定量): 「何個検品した」「入力が終わった」「納品した」で評価される(倉庫作業・データ入力・技術職)。
感覚過敏への配慮(物理環境)
意外と見落としがちですが、照明のチラつきや話し声は、ボディブローのように体力を削ります。
- チェック項目:
- オフィスの静けさはどうか?(BGMや電話の音がうるさくないか)
- 休憩室は一人になれるスペースがあるか?
- イヤホンやサングラス、帽子の着用は許可されているか?
ミスを「仕組み」で防げるか
個人の注意力に依存する仕事は、ADHDにとって地獄です。
- チェック項目:
- ダブルチェックの体制はあるか?
- 入力システムにエラー検知機能はあるか?
- 「間違えたら大事故になる仕事(医療・金融の窓口)」ではないか?
一人で探すのに疲れたら「自己理解」のプロを頼る
「自分がどんな環境なら輝けるのか」を、一人で見つけるのは難しいものです。 過去の失敗体験が邪魔をして、「どうせ次もダメだ」と思い込んでしまうからです。
就労移行支援を「シェルター」として使う
就労移行支援などの福祉サービスは、単に就職先を斡旋するだけの場所ではありません。 「なぜ今まで続かなかったのか」をスタッフと一緒に分析し、「自分の取扱説明書」を作る場所でもあります。
- 自己分析: 自分の脳のクセ(得意・苦手)を客観的なデータにする。
- 環境調整: 企業実習などを通じて、「どの程度の配慮があれば働けるか」を実験する。
焦って次の職場に飛び込む前に、一度立ち止まって「自分の脳」と向き合う時間を取ることも、長い人生においては必要な「戦略的休憩」です。
発達障害と仕事が続かないに関するよくある質問(FAQ)
Q. 転職回数が多いと採用されませんか?
A. 一般枠では不利になることがありますが、障害者枠やIT業界(スキル重視)では、回数よりも「何ができるか」や「辞めた理由(環境不一致)」が論理的に説明できれば問題視されない傾向にあります。
Q. 辛くても3年は我慢すべきですか?
A. 絶対にいけません。発達障害の方が合わない環境で我慢すると、適応障害やうつ病を発症するリスクが非常に高いです。心身を壊してまで守るべき仕事はありません。「限界だ」と感じる前に逃げてください。
Q. 向いている仕事が分かりません。
A. 「好き嫌い」ではなく「苦痛か、苦痛じゃないか」で選んでみてください。「人と話さないのが楽」「数字を見るのが苦じゃない」など、消去法で残ったものが、あなたの脳に合った適職です。
退職は「挫折」ではない。自分に合う場所を見つけるための「消去法」だ
「仕事が続かない」 それはあなたが劣っているからではありません。あなたの脳が、「ここは居場所じゃない」と命がけでアラートを鳴らしているのです。
そのアラートを無視せず、自分を責めるのをやめてください。 これまでの退職経験は、すべて「自分に合わない条件」をリストから消していく作業だったのです。
あなたは「続かない人」ではなく、「合う場所をまだ探している途中」なだけです。 消去法で絞り込んだ次の場所こそ、あなたが自然体で咲ける場所かもしれません。 焦らず、まずは自分の特性(取扱説明書)を知ることから再スタートしましょう。