「未経験からエンジニアになりたい」
そう決意して学習方法を調べると、多くの人がプログラミングスクールにたどり着きます。しかし、そこで「受講料60万円〜80万円」という金額を見て、足踏みしてしまう方は少なくありません。
もしあなたが、うつ病や発達障害などの診断を受けているなら、高額な費用を払う前にもう一つ検討すべき選択肢があります。
それは、国の制度を使って、同等のカリキュラムを実質0円で受講するというルートです。
本記事では、有料プログラミングスクールとIT系就労移行支援の違いを徹底比較。
それぞれのメリット・デメリットを整理し、あなたの状況にとってどちらが「賢い選択」なのかを解説します。
【比較表】プログラミングスクールと就労移行支援の違い
まずは、両者の違いを整理します。
どちらが優れているかではなく、「目的」と「環境」の違いとして理解することが重要です。
| 項目 | 有料プログラミングスクール | IT系就労移行支援 |
| 費用(税込) | 60万〜90万円 | 0円 ※(所得に応じた負担上限あり) |
| 期間 | 3ヶ月〜6ヶ月(短期集中) | 最長2年(じっくり習得) |
| 学習スタイル | スパルタ・自習メイン | 個別指導・メンタルケア付き |
| 就職サポート | あり | あり(一般枠・障害者枠・特例) |
| 対象 | 誰でもOK | 障害や疾患がある方(手帳なしでも可) |
※利用料について:就労移行支援は障害者総合支援法に基づくサービスです。前年度の世帯収入によって自己負担額が発生する場合がありますが、利用者の約9割以上は0円(免除)で利用しています。(出典:厚生労働省)
有料スクールは「速さ」、就労移行支援は「安定」
この2つは、目指すゴールは同じ「エンジニア就職」ですが、そこに至るプロセスが大きく異なります。
有料スクールが向いている人(ハイリスク・ハイリターン)
有料スクールの最大の価値は「時間を買うこと」です。
数十万円を払い、3ヶ月という短期間で強制的に詰め込むことで、最短ルートで転職を目指します。
- メリット: とにかく早く就職できる。
- デメリット: カリキュラムがハードで、脱落者も多い。
- 向いている人: 心身ともに健康で、短期間の猛勉強に耐えられる体力があり、資金に余裕がある人。
就労移行支援が向いている人(ローリスク・ミドルリターン)
一方、就労移行支援の価値は「配慮と着実性」です。
公費(税金)で運営されているため、費用を抑えつつ、体調に合わせてじっくりスキルを習得できます。
- メリット: 金銭的リスクがなく、メンタルケアを受けながら自分のペースで進められる。
- デメリット: 原則通所が必要で、即就職(1ヶ月後など)は難しい。
- 向いている人: メンタルや特性に不安があり、挫折せずに着実にスキルを身につけたい人。
メンタル不調の方が「就労移行支援」を選ぶべき3つの理由
もし現在、メンタル面の不調や発達障害の特性で悩んでいるなら、有料スクールよりも就労移行支援の方が、結果的に就職への近道になる可能性が高いです。
「短期スパルタ」による二次障害を防ぐ
有料スクールは「3ヶ月でプロにする」ために、1日10時間以上の学習を求めることも珍しくありません。
不調を抱えた状態でこの環境に飛び込むと、プレッシャーで症状が悪化し、スキルが身につく前にリタイヤしてしまうリスクがあります。
就労移行支援なら、週3日・1日4時間からスタートするなど、「ブレーキを踏みながら進む」調整が可能です。
環境面(物理的メリット)の配慮がある
有料スクールは一般的な教室形式やオンライン自習が主ですが、就労移行支援は「音や光に過敏」「対人が苦手」といった特性への配慮が前提にあります。
静かな個別ブースや、イヤーマフの着用が許容されるなど、「学習に集中するための環境」が最初から整っています。
企業側も「支援機関」の存在を重視する
未経験からの就職活動において、企業は「採用してもすぐに辞めてしまわないか」を懸念します。
就労移行支援を経由する場合、就職後もスタッフによる「定着支援」が入るため、企業側も安心して採用に踏み切りやすくなります。これは個人で有料スクールに通った場合には得られないメリットです。
有料級のカリキュラムが学べるIT系就労移行支援
「無料だと質が低いのでは?」と懸念される方もいますが、近年のIT特化型事業所は、有料スクールと同等、あるいはそれ以上の専門カリキュラムを提供しています。
1. Neuro Dive(ニューロダイブ)
- 分野: 先端IT(機械学習、データ分析、AI構築)
- 比較対象: 有料の「データサイエンスコース(約80万円〜)」と同等。
- 特徴: 企業のビッグデータを使用した実務実習が可能。高度な論理的思考力を持つ方に適しています。
2. atGPジョブトレIT
- 分野: Web制作(HTML/CSS、Photoshop、Illustrator)
- 比較対象: 有料の「Webデザインコース(約60万円〜)」と同等。
- 特徴: デジタルハリウッド(デジハリ)の教材を導入しており、プロのクリエイターと同じ動画教材で学べます。
3. 就労移行ITスクール
- 分野: システム開発(Java, PHP)、資格取得
- 比較対象: 有料の「エンジニア転職コース(約70万円〜)」と同等。
- 特徴: プログラミングだけでなく、基本情報技術者試験などの資格取得支援も手厚く、未経験からの就職実績が豊富です。
4. manaby(マナビー)
- 分野: Web制作、プログラミング全般
- 比較対象: オンライン完結型のスクールと同等。
- 特徴: 在宅訓練に対応しており、eラーニングシステムを使って自分のペースで学べます。通所が不安な方に最適です。
その60万円は、就職後の「環境投資」に使う
エンジニアになるために、無理をして借金をしたり、貯金を切り崩してまで有料スクールに通う必要はありません。
特に、体調や特性に不安があるなら、「スキル」と「安心」の両方が手に入る就労移行支援が、最も理にかなった選択肢です。
スクール代として消えるはずだった60万円は、晴れてエンジニアになった後、高スペックなPCや作業環境への投資に使ってください。
まずは、「自分が使える制度なのか」「どんな雰囲気なのか」を知るために、各事業所の無料相談・見学に行ってみましょう。リスクゼロで未来を変える一歩は、そこから始まります。
プログラミングスクールと就労移行支援の比較に関するFAQ
Q. 有料スクールは誰でも入れますが、就労移行支援は「手帳」がないとダメですか?
A. 手帳がなくても利用できる可能性が高いです。 有料スクールはお金さえ払えば誰でも受講できますが、就労移行支援は「医師の診断書」や「意見書」があれば、自治体の判断により受給者証が発行され、利用可能になるケースが大半です。諦める前に、まずは事業所の無料相談で確認してみてください。
Q. 「実質0円」といっても、後から教材費などを請求されませんか?
A. 原則されません。 有料スクールではPCレンタル代や教材費が別途かかることがありますが、就労移行支援(特に今回紹介した大手)では、PCも教材もすべて無料で貸し出されます。交通費助成がある自治体であれば、通所にかかるお金すらほとんどかからないケースもあります。
Q. 高いお金を払うスクールの方が、就職率は高いのでは?
A. 一概には言えません。 有料スクールは「3ヶ月で転職」などスピードを重視しますが、ついていけず挫折する人も多いのが現実です。 就労移行支援は期間が長い分、ポートフォリオ(作品)の作り込みや、障害特性に合わせた面接対策に時間をかけられるため、結果として「定着できる企業」への就職率は高くなる傾向にあります。