発達障害

ASDの「完璧主義」で仕事が終わらない。「適当」ができない脳の仕組みと、武器に変える働き方

「資料のフォントのズレが気になって、内容の修正が進まない」 「『とりあえず80点で出して』と言われても、怖くて提出できない」

ASD(自閉スペクトラム症)の方の多くが抱える「完璧主義」。 周りからは「真面目だね」と言われることもありますが、本人にとっては「常に100点を取り続けないと死ぬ」ような強迫的なプレッシャーとの戦いです。

その結果、仕事が終わらずに残業したり、確認作業で疲れ果ててしまったりしてはいないでしょうか。 本記事では、なぜASDは「適当」ができないのかという脳のメカニズムと、その完璧主義を自分を追い詰める「足枷」ではなく、仕事の「武器」にするための技術を解説します。

なぜASDは「完璧主義」になりやすいのか

性格の問題ではなく、脳の「不安を感じるセンサー」と「認識の特性」によるものです。

1. 「部分」に注目するシングルフォーカス

ASDの脳は、全体像(森)よりも細部(木)に強く意識が向く特性があります。 全体としてOKかどうかよりも、「ここの数字の並びが悪い」「色が微妙に違う」といった細部が気になり始めると、そこを修正しない限り次へ進めなくなってしまいます。

2. 「見通しの立たなさ」への強烈な不安

「ここを間違えたら、後で大変なことになるかもしれない」という想像力がネガティブな方向に働きやすいため、何度も確認しないと安心できません。 「ミス=死」のような極端な恐怖心(白黒思考)が根底にあり、自分を守るための防衛反応として完璧を目指してしまいます。

3. 「暗黙の了解」が分からない

一般的な人が感覚的に持っている「ここは手を抜いてもいい(重要度が低い)」という判断基準が、ASDの方には分かりにくい傾向があります。 全てのタスクを「最重要」として処理してしまうため、エネルギー配分ができずにパンクします。

ASDの完璧主義が職場で引き起こす3つのトラブル

質が高いことは良いことですが、ビジネスの現場では「スピード」とのバランスを欠くとマイナス評価になります。

1. 納期ギリギリまで抱え込む

「まだ完成していない(100点じゃない)」と思い込み、上司への報告や提出を先延ばしにします。結果、方向性が違った時に修正が間に合わず、大トラブルになります。

2. 「些細なミス」で自己否定に陥る

99個できていても、1個のミスを指摘されると「自分は無能だ」「もうダメだ」と全人格を否定されたように感じ、激しく落ち込みます。このアップダウンの激しさが、メンタル不調の原因になります。

3. 他人にも「完璧」を求めてしまう

自分に厳しい分、他人にも同じ水準を求めてしまいがちです。「なんでこんなミスをするんだ」「もっとちゃんとやって」とイライラし、職場の人間関係を悪化させることがあります。

苦しい完璧主義をコントロールする「妥協」の技術

「適当にやる」のではなく、「完了の条件を明確にする」ことで脳を納得させます。

1. 「時間の枠」で強制終了する

クオリティ(質)をゴールにすると永遠に終わりません。 「この作業は30分で切り上げる」と決め、アラームが鳴ったら途中でも手を止めます。最初は不安ですが、「時間内に終わらせること」自体を新たな「完璧の基準」に設定し直すトレーニングです。

2. 「確認回数」をルール化する

メールの送信ボタンを押す前に10回も見直していませんか? 「確認は2回まで」と回数に制限を設けたり、「指差し確認をしたらOK」と動作で完了を決めたりすることで、無限ループを断ち切ります。

3. 最初に見せるのは「30点」の段階にする

完成してから出すのではなく、骨組み(30点)ができた段階で上司に見せます。 「方向性は合っていますか?」と確認し、OKをもらうことで、「このまま進めて大丈夫だ」という安心感を確保します。これが「後出しジャンケン」による手戻りを防ぐ最強の策です。

完璧主義が「足枷」にならず「必須スキル」として機能する業務領域

無理に性格を変えるのではなく、あなたの「妥協できない特性」が、そのまま業務の質として求められる領域を選んでください。職種名ではなく、以下の「仕事の構造」がある場所が、あなたの生存領域です。

1. 「正解」と「不正解」が論理的に決まっている領域

(システム開発、コーディング、計算処理など)

「いい感じにして」という曖昧さがなく、動くか動かないか(0か1か)がハッキリしている世界です。 ここでは、あなたの白黒思考や細部へのこだわりは「融通が利かない」ことではなく、「バグやエラーを出さないための厳密さ」という、システム安定稼働に不可欠な「品質担保力」として機能します。

2. 「違和感」を見つけることが成果になる領域

(デバッグ、テストエンジニア、校正、審査業務など)

多くの人がスルーしてしまうような微細なズレやミスに対して、「気持ち悪い」と感じてしまう特性をそのまま活かせる場所です。 一般的な業務では「細かすぎる」と煙たがられる指摘も、ここでは事故やトラブルを未然に防ぐ「リスク管理能力」として、チームを守る役割を果たします。

3. ルールや規格への「完全準拠」が求められる領域

(法務補助、データ管理、コンプライアンス関連など)

独自の工夫やアレンジが禁止され、マニュアルや法規制通りに遂行することが絶対正義とされる仕事です。 「言われた通りにしかできない」「ルールを破れない」というASDの硬直性は、ここでは「絶対に逸脱しない信頼性」という強固な武器に変わります。

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完璧主義は、あなたを苦しめる鎖にもなりますが、適切な場所で使えば強力な武器になります。

「80点でいい仕事」で苦しむのではなく、「100点じゃないと困る仕事」を探してください。 自分の特性を否定せず、それが活きる環境を見つけることが、仕事の苦しみから解放される一番の近道です。

ASDの「完璧主義」に関するFAQ

Q. 仕事が遅いと怒られますが、どうしても手を抜けません。どうすればいいですか?

A. 「手を抜く」のではなく「優先順位をつける」と考えましょう。上司に仕事の依頼を受けた際、「この仕事で一番重要なポイントはどこですか?(早さですか?正確さですか?)」と聞き、「こだわらなくていい部分」を言語化してもらうのが有効です。

Q. 白黒思考(0・100思考)を治す方法はありますか?

A. 脳の特性なので完全になくすのは難しいですが、「グレーゾーン」を数値化する練習はできます。「0点か100点か」ではなく、「今日は60点できたから合格ライン」と点数で評価する習慣をつけることで、極端な思考を和らげることができます。

Q. ミスをした時の立ち直り方がわかりません。

A. ミスを「能力の欠如」ではなく「システムのバグ」と捉え直しましょう。「自分がダメだから」ではなく、「手順書のここが分かりにくかったから」「確認のタイミングが遅かったから」と原因を仕組み(外)に求めることで、自己否定を防ぎ、建設的な再発防止策を考えられるようになります。

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